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気儘な箱入りエッセイ

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まだまだ紙媒体が盛んだった頃に短いエッセイを書いたものを読むと、あれまあ恥ずかしいことです。少し直したり変えたりして掲載しています。これからのものは、また別マガジンを発行予定です…
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#エッセイ

「おもいだせない、おもいだせない」

 おもいだせない、おもいだせない。あれらは記憶のどこにあるのだ?混濁した精神を引っ掻き回…

Chie_Matsui
10か月前
7

菊の花

 玄関の菊の花を見た。買ってからもう二週間はたっているだろうか。 白と薄紫の菊の花弁は全…

Chie_Matsui
2年前
4

美術用語の散乱

 日本の美術状況は大変むつかしい。美術史自体が明治以降、細かく切れ切れになっているので距…

Chie_Matsui
2年前
7

コジャレター「触覚について」

 私はさわって確かめるのが好きです。とりわけ壁をさわるのが好きなので、どんな場所へ行って…

Chie_Matsui
2年前
4

名のある宝

 国の有名なお宝の、伴大納言絵巻を初めて見た。会場に入ると、壁面のガラスケースの中のわず…

Chie_Matsui
2年前
1

蟻と甲虫

 イソップ寓話に、「蟻と甲虫」という話がある。多くの人が思い出すことのできる「蟻とキリギ…

Chie_Matsui
2年前
4

植え替えの季節

 わたしは、ひところ三無主義と呼ばれた世代に属している。大学に入ったのが七九年で、そろそろ「あのころはよかったなあ。」というつぶやきと同時に、「君たちには、社会に対する問題意識が欠けている。」という批判を先輩たちから、いただいた世代である。  熱い学生運動のうねりに参加しなかったわたしの世代に、あるものはとうとうと伝説を語り、あるものは冷ややかなニヒルを演じた。そのときわたしは自分の家族を思い出した。 祖父母の代は、戦争で家屋も含め、多くの物を焼失していた。両親は青春時代を

風景

 生野区にあるアトリエの近所は、大阪でも数少なくなってきた風景を残している。  小さな町…

Chie_Matsui
2年前
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クレメンテの明るみ

 フランチェスコ・クレメンテの展覧会を見た。1971年から1994年までの、作家自身によるまとま…

Chie_Matsui
2年前
3

ガラスと欲望

 ガラスは堅くもろく透明な物質である。そんなガラスの容れ物に、私たちはいろいろなものを入…

Chie_Matsui
2年前
6

強力な形式美

 先週、茨城県にある水戸芸術館へジェニーホルツアー展を見に行きました。  ジェニーホルツ…

Chie_Matsui
2年前
6

ライステラスの眺め

 バリ島のライステラスと呼ばれる田園地帯の眺めは不思議だった。ホテルや土産物や、民家が並…

Chie_Matsui
2年前
2

家族というイメージ

 あるとき見かけた家族をテーマにした公共広告に写る一家の構成は、三世代家族だった。広告の…

Chie_Matsui
2年前
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猫の話

 その猫は五年前の夏にわが家のベランダにやってきた。居着くのがわかっていながら、私はつい食べ物を与えてしまった。二、三日姿を見ないなと思っていたある日、外から帰ってみると、ガラス戸の上の空気抜きの小さな小さな窓から部屋へ入り込んだらしく、部屋の隅にちょこんとすわっていた。  猫にしてみれば、空腹を満たしたい一心だったのだろう。だが私は、そこまでするんだったらここで暮らせばいいよと思ってしまった。これはまったく猫の思うつぼだったのかもしれない。  普通猫の目はすこしつり上が