架空の麦

知らない主語を思い出しては
田園をあるく
呟きがかたちになる前に
未熟な梨はとろける
例の穂波 おおよその山なみ

煮詰めたクリームを塗って
日記は完成した けれども
ぼくたちは許されることがない
それでも折る民は
(家に帰りたがっている)

埃をかぶった粗末な榑
寂れた蔵の奥から覗くにこやかな
比喩の子どもたち
おもしろい顔がおそろしくなるとき
誰がそれを見つめ続けられるだろう

あらゆる変化は寵愛されていた
ぼくの心は下水の底にある
ここでは肌をなぞるように
砂利を搾らなくてはならない
誰も死を知らない国で

ぷるぷるとした今際の
際、水銀があふれる
機嫌を損ねるのがうまいぼくたちは
生で入れる(わるい夢のようだ)
いかがわしい坩堝に落ちて

ぼくたちは足を挫いてばかりいる
空を掻きみだすうごきで
すり潰されたベージュが
味蕾をつらぬくよりもはやく
肉声そのものになった

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