回生と母子

きみがわたしを棄てることを
わたしは愛と呼ぶことができるか
たわわな松果体をぐちょぐちょにして
いかなる野花も手がけないことを誓おう
互いの膜がとけるまで指を絡めたこと
くびれた喉もとからやってくる、
声のない叫びの中に隠された
しずかな母音が踏み込んでくるまでの刹那を
埋めてしまうクリシェ
見るからにおかしい所作によって
わたしはわたしと契ることができない

幾たびか春の刺々しい巣を抜けて
斑になった鱗をなでる頃にきみは
夜空にうつくしい罅を入れられるだろうか
虚無を確かめるように首をふっている
わたしが走り去るのを堰き止める襞は
とめどない雫で日々をうるおし
ボウルに満ちみちた青は
きみのうぶ毛を洗礼する

冷たくなった手をもみながら
生地とともに円熟してゆくたましいの
ストーブに手記を焚べたあとにきみは
にゅるにゅると螺旋のすきまに入っていった
いるといないのへりに立つように
予感の中できみは亡くなる、故にわたしは
黒い微塵を服し、眠った

きみがわたしを棄てることを
わたしは愛と呼ぶことができるか
嘔吐はきみをはぐくみ、そして回春する
窓辺でゆれるエクリュ
仔細ない子音が水中でふるえるとき
命の束は裂け、わたしは叫んだ
あらゆる線はあやまっていた
仮名のふりかたをあやまっていた

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