“シュプートニク1号”が打ちあげられる
東京は世田谷駒沢4丁目・雑居ビル2階に”SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY”というインディペンデント系の本屋がある。その店主であるシュプートニクは、村上春樹をこよなく愛する「シュギシャ」である。そこから文化的雪かきを表す”SNOW SHOVELING"が生まれた。これは、シュプートニクについての物語である。
”SNOW SHOVELING”というお店やシュプートニクという人物を知ったのは、nomaが東京に引っ越してすぐの4年前。ランプの小さな光と剥製のキツネたち、たくさんの本に囲まれた薄暗闇の中で、シュプートニクがフラットに迎えてくれた。それ以来、”SNOW SHOVELING”で企画されたとってもユニークなイベントに参加してきた。ここ数年は、HARUKI MURAKAMI BOOK CLUBの参加率が高く、つい最近もオウムのサリン事件のインタビュー集『アンダーグラウンド』(@shop)や『約束された場所で』(@zoom)に参加した。ちょうどそのあたりから、シュプートニクのコメントやら、考えやら、アイデア、それに伴うアクションが気になり始め、この人はどこへ向かうのか、どんな計画をもってミライにすすんでいくのかがすっごく気になった。とうとうそれは「ベールに包まれたカレの実態を暴きたい掘り下げたい」という欲求にさいなまれ、このボヘミアZINEの着想とつながった。
ちょうどそんな時、東京に「非常事態宣言」が発令され、まもなくシュプートニクは、新たなアクションを起こす。それが《シュプートニク計画》であり〈シュプートニク1号〉の打ち上げである。
少し時間を遡れば、「非常事態宣言」が出される少し前から、”SNOW SHOVELING”はお店での営業を限定し、次のような条件を提示し入店できる人をしぼった。
・健康な方(ウィルス感染の疑いの無い方)
・自力で来れる方(公共交通機関を利用しない方)
・マスクの着用
・6フィートの距離を守れる方
・除菌スプレー、除菌タオルの利用に協力
・次回からいかなる選挙にも投票する方
・マスクの転売とか買い占めとかしてない方
「訪問はアポイントのある方か、羊男に限ります。」
ここが大事なポイント!あの「羊男」は、アポなし無条件でいけるのだ!羊男にマスクなんてものは必要なければ、選挙の投票権も持てず、イノセントのメタファーである(とnomaが解釈をしている)羊男がマスクの転売にも買い占めにも全く加担していないであろうことが想像される。さすが羊男。もしヤツがお店にいるのであれば、羊男に陶酔しているnomaもちゃんと条件を厳守しアポとって行きたいくらいに。
この条件が出された数日後の4月7日には、東京には『非常事態宣言」が発令され、とうとう”SNOW SHOVELING”もクローズすることになった。
そんな中、シュプートニクは違和感を抱くようになっていた。
「世の中がまずいことになっている。非常事態宣言でアクセルを踏んでしまった」
社会を取り巻くムードに危機感を強めたその頃、ついに〈シュプートニク1号〉が駒沢から打ち上げられた。
〜シュプートニク計画である《レコメン堂》と《Umber Read》〜
レコメン堂とは、10分間のカウンセリングをパソコンを通して行い、その人のことを想い選んだ一冊を送りますというサービス。
《Umber Read》とは、”SNOW SHOVELING”のある駒沢周辺(世田谷/目黒地区)に住んでいる人を対象に、選んだ3冊を直接お届けする、ちょっとした世間話もオプションでついてくるよーというサービス。
そもそも《Umber Read》は、以前から道ゆくUber Eatsの姿を見かけ、「こんなのが本であったらないいなぁ」と考えていた矢先のこと。常にアンテナが張り巡らされているシュプートニクが道端で浮かんだアイデアを「非常事態」に具現化したもの。
「世の中が息苦しい。そんなときには、ユーモアが必要。・・・・バカバカしくてちょっと笑ってしまうような・・・・不安になったとき、実態のあるもの、安心できるもの、ハートウォームな行為があったらいいな」
こんな思いつきからシュプートニク計画はスタートした。
”SNOW SHOVELING”にしろ、シュプートニクにしろ、普段より「ユーモア」を大事にしている。どんな時も肩肘張って誰もが認めるような正義をただ声高に叫ぶだけでは(時には必要だと思うけれども)なかなか届かない。そこに’ユーモア’を含むことで、人々は緊張の線がちょっとでもゆるみながらも、ほっとできるかもしれない、笑うことができるかもしれない。あるいは、そのユーモアの裏にひそんだメッセージが届きやすくなるのかもしれない。
このシュプートニク計画は、「みんなやらなくていい、こういうことをするバカがいるというニュースが知れ渡ればいい」という思いがある。
大阪生まれ育ちのnomaにとっては、ユーモアや「アホをすること」が幼い頃から知らず知らずに染み付いていた。常にアホなことを言わないとやらないと、大阪人はなかなか認めてくれない、noma自身も認めないからだ。社会が平穏な時は、ただの「アホ」で終わるけれども、こうして社会がおかしくなってきてると感じる時こそ、そのアホなこと(シュプートクには「バカ」なこと)がチカラをもってきていることを今ひしひしと感じている。
第1回シュプートニク計画は、見事に駒沢から打ち上げられ、全国やら、駒沢近辺の好奇心が旺盛な人々へ、愛とユーモアをもって届けられた。
この斬新なサービスが”SNOW SHOVELING”から打ち上げられたとき、わたしはそれこそシュプートニク・ショックだと思った。なにもシュプートニクと張り合ってるわけではない。nomaは西側陣営のものでものでもなければ(いや、どっちかといえば西側になってしまうか)、シュプートニクも東側陣営ではない。(ただ、われわれはどちらもどちらかといえば、旧東側諸国の思想の持ち主であることは否定できないと思うが)
そのショックとは、冷戦を生み出した東西陣営の対立でもなんでもなく、
「この状況をこんなふうになんてうまく楽しんでるんや。お店をクローズせざるをえなかったにも関わらず、マイナスの状況からプラスに変えて、こんな状態に保守的になるのではなく。手のひらで転がすまではいかないにしてもまさに危機的生活下で、自分の人生のイニシアティブをとって、更には自然発生的にうまれた愛のこもったサービスで、社会にユーモアとアイデアまで届けている」という刺激的な気持ちのいいショックだった。
シュプートニク号《レコメン堂》は1週間ほどで30件以上、《Umber Read》も20件ほどの「着陸」にも達している。この数以上の人たちがきっと、シュプートニク計画を欲しているんだろう。依頼する人はというと、本という「モノ」だけを届けてほしいというよりも、むしろ実際には、誰かと話したしたかっったり、聞いてもらいたかったり、シュプートニク計画を単に楽しんでみたかったりする人が多いんじゃないだろうかと想像する。
そこでアナーキーでもあるシュプートニクが玄関(あるいはスクリーン上)に現れ、ちょっとした世間話をする。あるいは、ずっとこもりっきりでストレスが鬱積している時にシュプートニクが現れる。そこでは、かなりの生々しさ、つまりヒトの匂い、取りまく空気、溢れるホルモン?!に刺激を受けざるを得ないだろう。物心をついてから生まれて始めて、こんなに狭いルームで孤独を抱える状況に陥ったヒトにとっては自分は「生きている、まだ大丈夫だ」ということを確認できるかもしれない。
〜次回は、シュプートニク号が着陸したそれぞれのレポート、実際nomaのところにも着陸した時のレポートについてもご紹介していきたいと思う。そこには、サービスを受ける側(お客さん)だけでなく、アクションを起こす側(シュプートニク)の、”シュプートニク・ショック”がいい具合に起こり、ふたりの外側へと響きわたっている感じがが伝えられたらな〜