マガジンのカバー画像

訪問看護〜回想録〜

21
訪問看護歴20年あまり。訪問先での出来事、思い出、学び。訪問看護いまむかし。
運営しているクリエイター

#エッセイ

大切にされていることを、大切にしたい。

Mさんは消化器系のご病気で、病気が分かってから1年以上、ずっと奥様と二人三脚で闘病をされてきました。口からの食事がとれない為、24時間の持続点滴は欠かせません。 先日、知的で穏やかなMさんにしては珍しく、スタッフとの電話の際Mさんが語気を強めたやり取りをされたと聴き、私は少し気になっていました。 抗生物質の点滴の追加指示が出たため、私は久しぶりにMさんのお宅へお伺いしました。 他愛のない話の後、私が抗生物質の点滴の準備をしていると、Mさんがぽつりぽつりとお話ししてくださいま

3回目のさくら

春生まれのKちゃんにとって、3回目のさくらの季節がやってきました。 (「笑顔の贈り物」の文中で最後に登場し、帰り間際に笑顔のプレゼントを1つ私にくれた、Kちゃんのお話です。掲載にあたりお母様の許可を頂いています) ・・・・・・・・ Kちゃんは生まれつきの病気で心臓と気管支が弱く、上手に呼吸をすることや、口からミルクを飲むことができませんでした。 誕生後、数カ月の入院を経て、鼻から胃まで管を通し、ミルクを注入する経管栄養を行いながらの自宅退院となりました。 初めてKちゃん

何が正解なのか その②

「何が正解なのか①」その後のお話です。 前回のnote はこちら→ https://note.mu/bochibochimaka/n/nba1f194a2b07/edit **************************** I さんは食事がとれなくなり、 医師より点滴の指示が出ました。 ご家族は迷っておられまたが、週末を挟むため、まず週末の数日間は点滴を行い、週が明けてからのIさんのご様子でその後の方針を決めましょうということになりました。 私たちがご家族と初め

何が正解なのか~人生を終えるにあたって~ その①

 90歳後半のIさんは特に大きなご病気はありませんでしたが、この数週間で食事がとれなくなり、医師より毎日補液の為の点滴の指示が出たため、訪問看護を利用されることになりました。 ご依頼を頂いた時、お看取りを視野に入れた対応となることが予測されました。 初めてご家族とお会いした時のことです。 「点滴は延命処置なのですか? 母は歳ですし、点滴で良くなるのでしょうか? 母のことは先生にお任せして、先生の指示に従うものだと思っていますが、家族の考えを先生にお話してもいいのでしょう

くやし涙

訪問看護部門の中でも、あまり感情を表に出さず、冷静に淡々と仕事をこなすKさんが事務所に戻ってきたとき、珍しく涙をためていました。 どうやら悲しいのではなく、くやし涙のようです。 主治医の先生とこんなやり取りがあったようです。 彼女の受け持ちの利用者さんは微熱が続いており、経過観察していたのですが、血液検査の結果炎症反応が悪化していました。 ご家族も微熱が続いている事、検査結果が悪くなっている事、 「このままでは身体が弱ってしまうのではないか」と心配をされていました。

お別れまでの時間

休日。 利用者さん宅にお伺いし点滴の準備をしていると、オンコールの携帯電話が鳴りました。 数日前に訪問看護利用の契約が済んだばかりのTさんの奥様からです。 「昨夜から夫の調子が良くない。朝トイレに行こうとしたけれど、途中で動けなくなりベッドに戻れない。起こしに来てほしい。」という内容でした。 早々に点滴を済ませ、急いでTさんのお宅にお伺いました。すると、Tさんはリビングの床に横になっておられました。 側で奥様と兄弟の方が心配そうに待っておられました。 私はTさんの顔を覗

11月の花嫁

ある日、80歳代のYさんの介護をされている娘さんから、 「娘(Yさんのお孫さん)の結婚式に母(Yさん)を出席させたい。看護師の付き添いをしてもらう事は可能か」 との相談を受けました。 介護保険や医療保険制度での訪問看護の利用には様々な制約がある為、自費対応なら付き添いが可能であることをお伝えしました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ その後Yさんは物忘れが進み、自宅での生活が難しくなり、入所の為に訪問看護は終了となりました。 半年後に娘さんから連絡をいただき、

ケアマネジャーの必須アイテム電卓?

何を隠そう実はわたくし、ケアマネジャー(介護支援専門員)としても働いていました。 しかも第1回のケアマネジャー実務研修受講者です…。働き方の選択肢の幅を広げたいと思い、長男の育児休業中に準備をし、受験しました。 ・・・・・・・・・・ 忘れもしません。 介護保険がいよいよ4月から開始される寸前の3月。 4月からのサービス提供票(1ヵ月間のサービス利用予定表のようなもの)の作成が必要でした。 国からの通達がぎりぎりだったため、ケアプラン作成ソフトの納品・パソコンへの導入

怒りの向こう側

Mさん。70代・男性。 呼吸器の病気があり、在宅酸素を使用。奥様が仕事をされているため、日中は1人自宅で過ごされていました。 病気がすすみ、少しの動作で呼吸苦が出現するようになり、今までは何とか1人で出来ていた事が1人で行うのが難しくなりました。 また、奥様の手を借りながらの入浴も、動作に伴う呼吸苦の為に困難となりました。 Mさんは、今まで1人でやってこられた方法や、こだわりが強くありましたので、ヘルパーさんの対応では身体のケアに関する援助は難しく、看護師の対応を希望され

めざせ、笑顔美人。

初めてSさんにお会いした時、Sさんは長い髪の毛で顔を隠すように下を向いてうつむいたままでした。 お話をしていると時々顔を上げられますが、表情は硬く、どこか瞳はうつろで目を合わせようとされませんでした。 Sさんは、メンタル科に通院し内服治療をされていました。 職場の人間関係のトラブルから不眠などの身体の症状が見られ、仕事を休みがちになり、やがて出勤ができなくなり退職されていました。 自宅にお伺いするようになって間もない頃の事です。 私がSさんとお話しをしていると、Sさんは自

4×12×5=240回!

週1回、Kさんのお宅に通って2年ほど経った頃の話です。 ご病気がありますので、 「あっちが痛い」「調子が良くない」 と言われながらも、毎週お伺いして、自宅での入浴のお手伝いをしていました。 そんなある日、介護されている娘さんがしみじみと私に言われました。 「昨日、計算してみました。看護師さんに月に4回来ていただいて、1年で48回、2年で96回! 100回近く、来ていただきました。親戚でも親しい友人でも、そんなにうちに来ませんよね!」 私も改めて回数を数えたことがなかっ

切ない告白

もう随分前、まだ私が訪問看護師として駆け出しの頃の出来事です。 (あれから、Hさんとご両親はどうされたのか) ・・・・・・・・・・・ 難病で寝たきりの40歳代の女性、Hさんのお宅に週1回お伺いしていました。 徐々に進行していく病気で、自力での呼吸もままならず、顔にマスクを取り付けるタイプの人工呼吸器を使用されていました。 ねたきりの状態で、食事も排泄も、すべての生活について援助が必要でした。 Hさんはご両親と3人暮らしで、もうすぐ80歳を迎えられるご両親がHさんの