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訪問看護〜回想録〜

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訪問看護歴20年あまり。訪問先での出来事、思い出、学び。訪問看護いまむかし。
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#介護

3回目のさくら

春生まれのKちゃんにとって、3回目のさくらの季節がやってきました。 (「笑顔の贈り物」の文中で最後に登場し、帰り間際に笑顔のプレゼントを1つ私にくれた、Kちゃんのお話です。掲載にあたりお母様の許可を頂いています) ・・・・・・・・ Kちゃんは生まれつきの病気で心臓と気管支が弱く、上手に呼吸をすることや、口からミルクを飲むことができませんでした。 誕生後、数カ月の入院を経て、鼻から胃まで管を通し、ミルクを注入する経管栄養を行いながらの自宅退院となりました。 初めてKちゃん

眺めのいい部屋

Tさんのお宅に伺うと、いつものように娘さんが待っておられました。 Tさんの部屋は、窓から遠くに海が見える一番眺めのいい部屋。 部屋に入ると、いつものようにTさんお気に入りのBGMが流れ、壁にはTさんが好きな花の写真やポスターがたくさん貼ってあります。窓からの景色がTさんからも見えるよう、窓の近くに介護用ベッドが置かれています。 いつものように、私は娘さんと向かい合わせにベッドを挟むように立って、娘さんと一緒にTさんの身体をホットタオルで清拭し、お通じの具合を確認し、おむつ

何が正解なのか~人生を終えるにあたって~ その①

90歳後半のIさんは特に大きなご病気はありませんでしたが、この数週間で食事がとれなくなり、医師より毎日補液の為の点滴の指示が出たため、訪問看護を利用されることになりました。 ご依頼を頂いた時、お看取りを視野に入れた対応となることが予測されました。 初めてご家族とお会いした時のことです。 「点滴は延命処置なのですか? 母は歳ですし、点滴で良くなるのでしょうか? 母のことは先生にお任せして、先生の指示に従うものだと思っていますが、家族の考えを先生にお話してもいいのでしょう

くやし涙

訪問看護部門の中でも、あまり感情を表に出さず、冷静に淡々と仕事をこなすKさんが事務所に戻ってきたとき、珍しく涙をためていました。 どうやら悲しいのではなく、くやし涙のようです。 主治医の先生とこんなやり取りがあったようです。 彼女の受け持ちの利用者さんは微熱が続いており、経過観察していたのですが、血液検査の結果炎症反応が悪化していました。 ご家族も微熱が続いている事、検査結果が悪くなっている事、 「このままでは身体が弱ってしまうのではないか」と心配をされていました。

お別れまでの時間

休日。 利用者さん宅にお伺いし点滴の準備をしていると、オンコールの携帯電話が鳴りました。 数日前に訪問看護利用の契約が済んだばかりのTさんの奥様からです。 「昨夜から夫の調子が良くない。朝トイレに行こうとしたけれど、途中で動けなくなりベッドに戻れない。起こしに来てほしい。」という内容でした。 早々に点滴を済ませ、急いでTさんのお宅にお伺いました。すると、Tさんはリビングの床に横になっておられました。 側で奥様と兄弟の方が心配そうに待っておられました。 私はTさんの顔を覗

11月の花嫁

ある日、80歳代のYさんの介護をされている娘さんから、 「娘(Yさんのお孫さん)の結婚式に母(Yさん)を出席させたい。看護師の付き添いをしてもらう事は可能か」 との相談を受けました。 介護保険や医療保険制度での訪問看護の利用には様々な制約がある為、自費対応なら付き添いが可能であることをお伝えしました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ その後Yさんは物忘れが進み、自宅での生活が難しくなり、入所の為に訪問看護は終了となりました。 半年後に娘さんから連絡をいただき、

答えの無い問い

Sさん。 武道を趣味とされ、戦後生まれの男性らしく無口で無骨な感じの方。週1回、状態チェックと、自宅での入浴の介助でお伺いしていました。 がんと診断され、余命3ヵ月と医師より宣告をうけてから、1年半が経ちました。 浴室でも自分からはほとんどお話しされないのですが、時々、自分からお話をされます。 「どうしてこんな病気になったのだろう?」 「余命3ヵ月と言われてから1年以上も生きているのはどうしてだろう?」 「もし、あなた(私に向かって)のご主人が同じ病気になったら、ど

4×12×5=240回!

週1回、Kさんのお宅に通って2年ほど経った頃の話です。 ご病気がありますので、 「あっちが痛い」「調子が良くない」 と言われながらも、毎週お伺いして、自宅での入浴のお手伝いをしていました。 そんなある日、介護されている娘さんがしみじみと私に言われました。 「昨日、計算してみました。看護師さんに月に4回来ていただいて、1年で48回、2年で96回! 100回近く、来ていただきました。親戚でも親しい友人でも、そんなにうちに来ませんよね!」 私も改めて回数を数えたことがなかっ

切ない告白

もう随分前、まだ私が訪問看護師として駆け出しの頃の出来事です。 (あれから、Hさんとご両親はどうされたのか) ・・・・・・・・・・・ 難病で寝たきりの40歳代の女性、Hさんのお宅に週1回お伺いしていました。 徐々に進行していく病気で、自力での呼吸もままならず、顔にマスクを取り付けるタイプの人工呼吸器を使用されていました。 ねたきりの状態で、食事も排泄も、すべての生活について援助が必要でした。 Hさんはご両親と3人暮らしで、もうすぐ80歳を迎えられるご両親がHさんの