オレンジの絆

幼少期に親に連れられて行ったのをきっかけに、すっかり山に魅了された。その後、高校は山岳部、大学では探検部に所属し、どっぷりと自然を満喫して育った。高校山岳部ではインターハイにも出場経験がある。出場だけだが。

競技としての山岳部公式戦は、安全に登山を楽しむために必要な知識と技術を点数化され、優劣がつく。登山道の脇に隠れた審査員が、選手の歩き方をチェックする。そして筆記試験もある。そのため、普段の放課後トレーニングでは、ランニングや歩荷のあと、植生、地形、天気図、応急処置、山でのマナーなどを広範囲に勉強していた。体育系でありながら、文科系でもあった。


 すれ違い時や追い越し時は挨拶や声掛けをしよう。登山道の細い登り坂では、基本的には登りが優先。鎖場は一人ずつ。落石したら後ろの人に伝える。そうしなければ減点対象になるため、当時はやや大げさに声掛けをしたりもした。私の普通はそうだった。それが山でのマナーだと思っていた。

 ところが、大人になって九州から関東に移り住み、近隣の山に出かけてみたら、私の普通は普通ではなかった。関東の山では挨拶は、されれば返す程度。道を譲り合うという概念はないようで、鎖場でさえも縦列する。良く言えばクール。率直に言うと、自分のことしか考えていないんだなあ。と悲しくなり、ときにイラっともした。リフレッシュしに来たはずが、反ってストレスになっていたりもした。更年期も始まっているに違いない。

九州の山は良かったなあ。部活は良かったなあ。そんなノスタルジックな思いと、若干の苛立ちが入り混じる関東の山歩きだが、一つ、嬉しいことがある。オレンジ色のタオルを首に巻いたり、Gと刺繍されたキャップやTシャツを着て歩いていると、同様の装束の人とたびたび出会うばかりか、お互い「あら、(同志だわ)」と笑顔になり、自然と挨拶を交わしてしまう。荒んだ私の心に、オアシスが出現したかのように、パッと視界が開ける。急坂のつらさや、自己中心的だと思っていた東京砂漠人のことなんか、どうでもよくなる。むしろ、みんなが良い人に見えてくる。いや、自分だってその一員になっていたではないかと気付かされる。

また、いつだったか、谷川岳に向かう途中、いつものGファッションで地下鉄に乗ると、黄色と黒の衣装の酔客に因縁をつけられたことがある。決して目は合わせなかったが、「アウェーで虎が吠えている」と心の中で強気になっていたのには我ながら驚いた。
 
 ここまでその気になっておいて、残念ながら私は熱心な巨人ファンではない。友人が巨人のファンクラブに入っているから、そして、東京ドームの快適さが好きだから、という程度のえせファンだ。でも巨人が勝つと嬉しいし、友人がくれた選手名鑑を全然分からないのに一丁前にめくったりする。今年もまた新しいTシャツを買いに行こう。山で着るために。​

★キナリ杯を新聞で知り、カンパをしようとしたらnoteに登録することになり、じゃあ初投稿という運びです。

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