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思春期から精神疾患を発症。長いこと回復されていない方からのご相談に答えしました。

ご相談の内容

はじめまして。失礼します。
精神的病を中学生から悩んでいるんですが、何十年たっても回復しません。治らない自分が悪いと責めて責めて自分を実際に傷つけたりしているのですが心がすくわれません。
治らない病とどう向き合えばいいですか?自傷で一時気分が晴れるのはただの錯覚ですか?もう人生諦めかけています。


はじめに

中学生の頃から何十年も精神的な病で苦悩されてきたとのこと。

やり切れない感情の中でもベストを尽くして生きてこられたことと推察します。

自傷行為は、一瞬は、確実に救われたと実感できる対処法です。なので、次も次もと繰り返してしまうことはよく分かります。

ただ、自傷した自分を後悔して責めてしまうという悪循環にも陥ってしまうので、本当に心苦しいところです。


自傷を繰り返す理由(負の強化)

心理学の考えのひとつに『行動分析学』というものがあります。

行動が、増えたり・減ったりする理屈を解明する学問です。

行動が増える理由のひとつに『負の強化』というものがあります。
これは、自傷行為を繰り返す説明をするときによく使われます。

負の強化とは、
ある『不快な刺激』を取り除くために、
ある『行動』をとると、
その不快な刺激が『消える』というものです。
不快な刺激が消えるという『メリット』が発生したのです。
このような学びを経て、その行動は『増える』というのが理屈です。

たとえば、アルコール依存症の場合、
『仕事でミスを犯す』という不快な刺激を取り除くために、
『お酒を飲む』という行動をとると、
脳が麻痺してミスをしたことを『忘れる』というメリットが発生します。
このような学びを経て、お酒を飲む行動は『増える』というのが理屈です。

さらにお酒のタチの悪さは『耐性』がつくというところです。
つまり、お酒に慣れてしまって気持ちよくならないという現象です。
すると、お酒の量を増やして気持ちよさをゲットするので、お酒を飲む行動はよりより増えていくのです。これが依存のカラクリです。

図4


自傷を踏みとどまる対処スキル

私が好きな『DBT(弁証法的行動療法)』では、自傷行為を踏みとどまる対処方法について学びます。

「それって対症療法でしかないでしょ?」って非難を浴びることもありますが、「対症療法を知らないなら知るしかないでしょ」って言い返します。

以下、しっくりくるスキルがあれば、自傷したくなった瞬間に試してみてください。

<自傷を踏み止まる対処スキル>
① 冷水を飲む
② 頸動脈を冷やす
③ 顔を洗う
④ 息を長く吐く
⑤ その場から離れる
⑥ 青空をみる
⑦ 香りを嗅ぐ
⑧ 拳を握ってゆっくり離す
⑨ 輪ゴムで手首パチン
⑩ 励ましの言葉を唱える

図6


対処スキルの補足説明

対処法のポイントは、身体感覚に直接的に効かせることです。
とくに『冷やす』という行為は、冷静さを取り戻すことに効果的です。

また、『息を吐く』という行為は、準備が何もないときにとても有効です。私の場合は8~10秒くらい息を吐き続けます。すると副交感神経(リラックス神経)が優位になっていくのを感じます。

『問題との距離をとる』というスキルも効果的です。距離が近いと巻き込まれやすく、一生、苦しみから逃れられないと感じてしまいます。『タイムアウト』といって戦略的に撤退してみることです。

一生懸命に生きてきた自分を励ます言葉をひとつでも持っておきましょう。私の場合は『ここを乗り越えたらミラノ風ドリア』という感じです。

自傷したくなったその瞬間、冷静な時の自分に少しでも戻ってくるためのスキルを紹介しました。

図7


人生を好転させる中長期的な戦略

ここからは、先ほどのような瞬間瞬間の対処法ではなく、少し長い目で人生をとらえたときの『生活スタイル』を変える戦略です。

生活のスタイルを変えて、かつ、それを継続していくには相当な労力を使うことになります。

自分ひとりで継続することが難しい場合は、他人の力も借りながらゆるくでも長く続けてもらえると、「あれ… そういえば、最近、自傷してないかも…」といった具合に、徐々に効果を感じられると思います。

<人生を好転させる中長期的な戦略>
① 健康的な自傷行為に切り替える
② ピアグループに参加する
③ 福祉サービスを利用する
④ カウンセリングを利用する
⑤ 日記をつける
⑥ セロトニンを増やす
⑦ 自律訓練法を練習する
⑧ 頑張ったらご褒美の制度づくり
⑨ 慈悲の瞑想
⑩ マインドフルネス
※病気によって禁忌あり

図8


中長期的な戦略の補足説明

大学で心理学を教えている専門家から「『健康的な自傷行為』を探すといいよ」というアドバイスをもらって、とても気に入っています。代表的な方法は筋トレでしょうか。

その先生は、食べ物系の自傷行為にハマっているそうです。たとえば、辛い・酸っぱい系の食べ物。苦痛も期限が決まっていれば喜びだよね。という理屈です。たしかに、レモンとか七味唐辛子とか、やってますね。

ピアグループのピアは『仲間』のことです。世の中には、自分と同じような境遇の人がたくさんいます。「自分だけが変な存在なのかも…」というのは違うと思います。世の中には、たくさんの当事者グループが存在します。

ヒトに話したり、日記を書いたり、自分の情況を外に出してみるという作業はとても効果的です。頭の中だけで完結させようとするから無理がくるのです。外にだしてから観る。これはメンタルヘルス対策の基本です。

頑張った後のご褒美制度は、プレマックの原理とか、自己強化法などと呼ばれます。大人になると、誰もご褒美をくれません。自分でやるしかないのです。私の場合は、やはり『ミラノ風ドリア』です。

『慈悲の瞑想』もすごくいいですよ。
動画を作ったのでよろしければお試しください。

マインドフルネス瞑想の禁忌は、統合失調症だと習いました。
※瞑想によって、陽性症状(妄想)を強めてしまう可能性があるため


心理的危機対応プラン『PCOP』

『PCOP』は、心が限界を感じたり、死にたいくらいの気持ちになったりした経験がある方の助けになるよう開発されたものです。

いざという時に使えるアイテムをあらかじめ準備しておき、心理的危機状
態を脱するために役立てるものです。

具体的には「紙に必要事項を記入し、それをいつも持ち歩き、時々取り出して見直す」というだけの簡単な方法です。

ぜひ、試してみてください。
http://stopijime.jp/pcop.html

自殺の試みを減らすために公的機関や医療機関を中心に様々な取り組みがなされていますが、とりわけカウンセリングの一種である「認知行動療法(Cognitive behavioral therapy : CBT)」という方法は、高い効果を持ちます。
CBT を受けるには、一般的には病院やカウンセリングルームに継続して通う必要があります。
他方で、公共機関に AED が置かれ、多くの人に人工呼吸・心肺蘇生法が伝えられているように、誰でも・どこでも・短時間で、心理的なケアができる、緊急対応の方法が求められてもいました。
そんな中、アメリカの臨床心理学者、Crayg J. Bryan 氏は、短時間で実施可能で、なおかつ効果の高い CBT を、米国軍人を対象として開発しました。それが「危機対応プラン(CRP:Crisis Response Plan)」です。
アメリカの危機対応プランを実施された兵士は、標準治療を受けた兵士と比べて、介入後6ヶ月間における自殺企図が 76% 減少しました。
※PCOPリーフレットより引用


さいごに

自傷対策は、ここで取り上げたものだけでなく、他にもたくさんの対策があります。

苦悩と向き合い、付き合っていく生活を続けていった結果、自分なりの人生の意味にたどり着くかもしれません。

DBT(弁証法的行動療法)の最終目標は『JOY』です。
様々なスキルを使って自傷行為が収まったとしても、なにか空虚な感じが残ってしまうとのことです。

よって、その先にある『JOY』を目指すことが最終ステージになります。
でもまずは、自傷を踏みとどまることがスタートだと思います。

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