おいなりさん

毎年この日におばあちゃんは何故か少しだけお米を炊いて酢飯を作り、油揚げにお米を詰めて綺麗なお稲荷さんを作ると家からこっそり出かけていく。
いつもよりも何倍も慎重に作っているそれを食べようとした去年はいつもは出さないような大声で怒られて大泣きした記憶がある。
だが、好奇心に勝てなかった私は初めておばあちゃんの後をつけていく決意をした。
私は前日のうちにできる限りの準備を進めていた。履きやすい靴、動きやすい服の用意。長い道のりだったときの為の飲み物と元気を出すためのお菓子たち。気分はさながら遠足の前日みたいでなかなか眠ることが出来なかった。
当日の朝は目覚ましより少し早く起きてお母さんたちに少し驚かれたけど、何でもない振りをした。朝ごはんは食べられるだけ食べて、仕事に向かう両親を横目に私も出かける準備をした。
そして、とうとうお稲荷さんを作り終わったおばあちゃんが家の裏口から出ていくのを確認してから、私は玄関から出てこっそり後をつけていった。
おばあちゃんが向かう先はだんだん木が多くなってきて歩きずらくなってきた。でも、その分隠れやすい場所が増えたのは有難かった。
道中おばあちゃんが後ろを振り向いた時はバレるかと思って心臓がキュっとなったが直ぐに前を向いて歩き出したのでほっとした。
そして、とうとうたどり着いたのは少し古びた狐の像がある建物だった。おばあちゃんはお稲荷さんを取り出して置きお参りすると踵を返した。
私は慌てて隠れようとした木がの根に足を引っ掛けて転んでしまい、見つかってしまった。
あぁ、また怒られちゃうと思い目をぎゅっとつぶった。
だが、降ってきた言葉は思っていたものでは無かった。
「ゆずちゃん?!大丈夫?怪我はない?」
その短い言葉に安心してしまった私は泣き出してしまった。
その後、おばあちゃんから聞いた話では数年前に今日がいなりの日だと知ってから毎年自主的にお供えに行っていると知った。
それからは私もおばあちゃんと一緒に毎年お稲荷さんを作り持っていくのが恒例行事となった。

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