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街やコミュニティを支えるもの

コロナの再拡大で今年の夏は旅行や帰省も控えるひとが多いようですね。僕もお盆には帰省しようと思っていましたが見合わせます。観光や旅行の制限は地域の公共交通にも影響があるようですね。『赤字ローカル線に廃線圧力が強まっている。新型コロナウイルス禍でJRの旅客6社は九州を除く5社が赤字だった。地域の公共交通を維持するため、自治体にはこれまでのJR依存からの脱却が求められそうだ。(日経新聞7月24日)』もっともコロナ前からこんな話はありましたが、あらためて検討することのようです。

赤字問題だけでなく、クルマ社会がいわれて久しいのも廃線圧力になっています。しかしクルマ社会を前提にすると、実に移動が困難になる経験を以前しました。昔、出張で米国ペンシルベニア州ハーシータウンという田舎街に行った時のこと。移動手段がクルマしかなくて、食事にいくのにも一苦労しました。毎回、なかなか来てくれないタクシー(タクシーすらほとんどいない)を呼ぶか、さもなければ滞在中のホテルで変り映えのしないものを摂るか。そのうち移動そのものが面倒になって、自由時間に観光する気力すらなくなりました。日本もクルマ社会を前提に公共交通機関をやめてしまうと同じような不便があるでしょうね。

阪急グループを作った小林一三さんの話は、鉄道が街や産業を興すことを思い出させてくれます。あまり説明も必要ないでしょう。彼は鉄道を皮切りに何もない土地に街を作り、人々が移り住み、その土地での経済活動を生み出し、更に広域の移動を可能にして関西経済圏を活性化させた。このモデルは大成功し、後に東急創始者の五島慶太さんにも引き継がれた。要するに便利な移動手段こそが豊かで発展性のある社会基盤そのものだったと言えるのです。その意味で、鉄道というのは単なる移動手段ではなくて、人々がある程度の人数で生活をする「単位」でもあると思います。逆に廃線などでアメリカのクルマ社会のようになると、おそらく街を離れる人が増え、過疎化が進行する。過疎化が進むと社会的なインフラや公共サービスも不要、経済合理性がないというので縮小。「住みにくい土地」となり更に人が離れる。負のスパイラルの原因はこんなことではないかと思います。

赤字問題に関して、欧州ではクルマ社会型に移行するのではなく、ちゃんと街の中に鉄道が存在するケースが多いようですね。郊外に出る時に鉄道を使うことも多いし、街の中ではトラムが走っていることも多く、移動も便利だし観光的なバリューもある。『欧州では上下分離方式と呼ばれる民間と行政の役割分担が主流だ。「上」にあたる列車運行を鉄道会社が担い、路線や駅などインフラの保守点検や整備といった「下」のコストは行政が引き受ける。国によって温度差はあるが、鉄道網の維持に公的資金を投入するコンセンサスが確立されている。(日経新聞7月24日)』これなどは鉄道が移動手段、観光、コミュニティ維持など多様な価値を持つことを認めているからだろうと思います。いまの日本・地域に参考になることも多いと思います。