偶有性への感受性を高めるための「占い」の役割
以下は、事業構想ツアー『構想における偶有性』の案内文である。ビジネススクールの在校生、修了生を対象としたこのツアーでは、これまでのビジネススクールではタブーであった直感をトレーニングする手法として、占いを学ぶことになっている。なぜ占いを学ぶのか、ということについて、参加者の期待値を揃えるために書いた案内であり、ツアーに参加しない人にも参考になる部分もあると思い、ここで共有することにする。
占いはよく、統計学とも言われる。とくに占星術において、「これは統計だから」という言い方をすることが多いように思う。多くの事例を集計したときに、どうもこういう星回りでこういうことに遭遇する人が多いという経験則を積み上げていく中で、占星術が生まれたというのだが、この説明は普通には納得しづらいだろう。集計のRAWデータもないし、それにマクロな星の運行と、ミクロの個人的人生との間に、あまりに大きなスケールの違いがあって、そこに相関があると言われてもにわかに信じがたいからだ。一方で、厄年が、ちょうど体調の崩しやすい年齢に設定されていて、だから注意すべきだという話は、なるほどと思う一方で、それだったら科学的に言われたほうが、説得力があるのではないかとも思ってしまう。
にもかかわらず、やはり占いには抗しがたい魅力がある。それは偶有性に関係している。偶有性とは、必然と偶然のちょうど間、必ず起こるとも言えないけれども、まったく偶然と言うには秩序が見え隠れするようなできごとである。人生は、そうした偶有性の連続で、必ずということではないが、たしかにそうした境遇にいれば出会いそうな偶有性が私たちを取り囲んでいる。偶発的に起こる出来事をキャリア形成に活かしていくというクランボルツの計画的偶発性理論は、必然に傾きすぎた人生にもう一度偶有性を取り戻す取り組みともいえよう。
ロジカルシンキングを重視するこれまでのビジネススクールもまた、やや必然に傾きすぎていた。状況を考えれば必ずこの戦略に収束していくはずだという必然的な推論形式を採用するうえで、偶発性は排除すべきことのひとつであった。リスクマネジメントは、リスクは適切に管理されるべきものであるという前提に立つし、シナリオプランニングでは想定外のできごとを想定することで、リスクへの対応を行う。このように偶発性は排除すべきであるからこそ、偶発性を計画的に取り入れようというクランボルツの発想には驚きがあった。
話を占いに戻そう。占いは、厳密な意味での統計学ではない。しかし、必然的な因果関係ではなく、あくまで相関をもとに推論していくという意味では、統計的な思考に近いものをもっている。だからこそ、占いは私たちの日常生活や意思決定に独特の影響を与え続けているのかもしれない。占いが提供するのは、厳密な予測というよりも、可能性の示唆である。それは、私たちの人生における偶有性を認識し、それを積極的に活用する方法を提供している。占いは、必然と偶然の狭間にある出来事に対して、ある種の解釈の枠組みを与えてくれる。この枠組みは、科学的な厳密性には欠けるかもしれないが、人間の心理に働きかける力を持っている。
例えば、占いによって「今日は新しい出会いがあるかもしれない」と示唆されれば、人はより開かれた態度で一日を過ごすかもしれない。これは単なる自己成就予言のように見えるかもしれないが、実際には、偶有性に対する感度を高め、潜在的な機会をより積極的に捉える姿勢を育むことにつながる。また、占いは不確実性の高い状況下での意思決定を助ける道具としても機能する。ビジネスの世界でも、データ分析や論理的思考だけでは捉えきれない要素が存在する。そこで占いのような直感的なアプローチが、時として新たな視点や創造的な解決策をもたらすこともある。
結局のところ、占いの本質的な価値は、私たちに「別の可能性」を示唆し、固定観念から解放してくれる点にあるのかもしれない。それは、クランボルツの計画的偶発性理論が示すように、偶発的な出来事を積極的に活用する姿勢につながる。このように考えると、占いは単なる非科学的な迷信ではなく、人間の複雑な心理と社会の不確実性を反映した、ある種の「生きた統計学」と捉えることができるだろう。それは、厳密な科学とは異なる形で、私たちの日常生活に寄り添い、時に新たな可能性を開く役割を果たしているのである。つまり占いは、その科学的妥当性よりも、私たちの偶有性への感受性を高める触媒としての役割に真の価値がある。それは、厳密な予測ツールというよりも、人生の不確実性と可能性を受け入れ、探索する姿勢を育む文化的実践といえる。占いは、必然と偶然の狭間にある出来事に対する私たちの感度を磨き、予期せぬ機会を積極的に捉え活用する能力を育成する。
このように、占いは単なる迷信や娯楽を超えて、現代社会における不確実性への創造的な対応策の一つとして捉え直すことができる。それは、私たちに柔軟な思考と開かれた態度を促し、人生の予測不可能な展開により良く適応し、そこから価値を見出す力を養うのである。
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