見出し画像

兵庫県知事選挙におけるフィクション同士の戦い

斎藤元兵庫県知事の当選は、多くの人にとって驚きの結果だったようで、それもゼロ打ちと呼ばれる、投票が締め切られた午後8時になってすぐ、当確がでた。まるでトランプの当選を見るようでもあった。リベラル派の候補者が勝つと信じていた人が、結果を受け入れられない様子も、まったくその再現だった。

さて、これが、SNS、特に動画系のSNSの活用や、それによって拡散した「陰謀論」によって起こったというのが、彼らにとってもっとも説得力のある説明だ、というのも、同じだ。トランプはありもしないフェイクを語り続け、斎藤候補を支援する立花孝志も、荒唐無稽な陰謀論を語り続けた。有権者がそれに騙されたことを指摘して、「今後の選挙のあり方に課題が残った」というのが、ひとつのパターンだ。

私から見れば、リベラル側もそんな上から目線で言えるような立場ではないように見える。SNSで流れてくるのは、「パワハラ知事」というレッテルを張っておこなわれる斎藤候補への人格攻撃。22人の市長が稲村支持を表明した記者会見でも、相生市の谷口芳紀市長は机を叩いて激昂しながら斎藤候補を批判した。斎藤候補の演説会場には、「究極のパワハラ」「どのツラ下げて立候補したのか。ひっこめ」というプラカードが掲げられた。有権者はここに、茶番を見た。

亡くなられた県西播磨県民局長は、PCに入ったプライベートな情報が公開されることを苦にして究極の選択をしたという説がある。このことについて、議員だけでなく、マスコミも隠蔽して、あくまで斎藤氏に対する抗議に仕立てたがっていたという「陰謀論」も流れた。これについては、正直、真実がどこにあるのか判断ができないように思えた。この情報の取り扱い方に、さらなる別の陰謀論が渦巻いた。既得権益が斎藤候補を陥れようとしているというストーリーが真実味を帯びてくる。

22人の市長による支持表明は、その決定打にもなったように見えた。その背景には兵庫県のこれまでの政治状況も絡む。机を叩いた相生市の谷口芳紀市長は、7選、そのうち6回連続無投票、24年もの長きにわたって市長をつとめている。「既得権益」が服着て歩いているような、強烈なキャラクターだ。

しかし一方で、立花孝志など取り巻きの主張は、どう贔屓目に見ても、多くの陰謀論が含まれている。立花氏は候補者の討論会で、「斎藤氏が法を犯している根拠を示せ」と繰り返し主張したが、私からすれば立花氏も噂レベルで根拠を示していない。相手には根拠を求め、自分の発言には不要だという、本当に不誠実な人間だと思う。

しかし、リベラルの側も五十歩百歩だ。結局、「どちらのフィクションを選ぶのか」という選挙であり、「多少パワハラ気質があったとしても、しょうがない(本当はパワハラのない候補の方が良いが)」という消去法にも近い投票行動が起こったのではないだろうか。

リベラルは、今回、斎藤候補に投票した人を、無知蒙昧で陰謀論に騙される人たちというプロファイリングを絶対にしてはいけないと思う。遠いところから見ていると、むしろ賢明な判断をしているように見える。ちなみに、今回敗れた稲村候補はそのスピーチを聞く限り、誠実な方で、また別のところで活躍を期待したい。今回の一番の被害者だったかもしれない。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師

いいなと思ったら応援しよう!

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)
よろしければサポートお願いいたします。いただいたサポートは協会の活動に使わせていただきます。