野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(3)
野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(2)の続きです
考えながら書くか、考えてから書くか
野上 日頃、みなさんはどんな順序で書いていますか。書きながら考えますか? 考えてから書きますか? これも実名アンケートで取ったんですが、少し、うさぎタイプ(書きながら考える)が多いようです。両方している、という人もいました。それぞれ、メリット、デメリットがあります。書き始めるのが早い人は、早いんだけど途中でちょっと止まっちゃうとか、考えてから書く人はなかなか書き出さない。その課題をわかりながら、その書き方をしている[図8]。
野上 記事を書くプロのライターにも、うさぎ型と亀型の両方います。いきなり書き始めて書きながらああでもないこうでもないって最後ゴールにたどり着く人と、なかなか書かなくて、構成考えてから書くのが得意な人も、両方いる。専業でやってる人たちだっていろんなタイプがいるので、メディア的な発信ではなくて、コミュニケーション目的で文章を書かれるみなさんは、どちらの書き方がいいのか悩む必要はありません。
ただ、文章術の本って、日本でも、ここ三〇年、四〇年ぐらい、毎年のようにかなりの本が出ていますが、だいたいこういうことを言ってます。「アウトライン構成を考えて書き始めましょう」「計画なしで書き始めると、壁にぶち当たるんで、ちゃんと考えてから書きましょう」と。
小山 まっとうなアドバイスに聞こえますよね、
野上 ロジックツリーや、PREP法などいろんなフォーマットもありますしね。どれも正しい文章術です。ただ、これができたら苦労しないですよね、みなさん。おそらくこれができた時点で、今日この話聞いてないと思うんですよ。構成だってできてるはずなんです。
なので、僕は「事前に構成、アウトラインを」というアドバイスは、書くことにいま悩んでいる人には、ほぼ意味がないと思います。このアドバイスに対する挑戦で書いたのが……
小山 野上さん、いままさに大切なことを言おうとしてますね。
実はいま、始まってから三〇分経ちまして、ここでYouTubeの無料配信が終わります。BMIA会員になっていただくと全部見られますので、ぜひ。
文章における的確さや速さの源泉
野上 新聞記者のルーチンワークがみなさんにきっと役に立つだろうと思って、アウトラインではなくて、的確さや速さの差を生む源泉ってなんなのかというのを考えたんです。
小山 僕は野上さんの本を、もちろん事前に読ませていただいてるんですけども、ここはやっぱりすごくおもしろいところだと思いました。しっかり構成をつくってから書けっていう一般的な常識じゃない、ハイブリッドでリアルな、現場感覚で磨かれたこの文章術、ここが本髄のところかなという感じがします。
野上 ありがとうございます。それがなんなのかというと、文章を書き始める前に、見出し、タイトルを仮置きする「仮見出し」ということなんですね。
Wordでも手書きでもいいんですけれども、書き始める前に必ずタイトルを置いてください。それは仮置きでいいですよ、ということです。これを「仮見出し」と名づけて、これを必ずやってくださいねというのが、このフレームワークのひとつめです。
読む? 読まない?
野上 今日ここに来る前、Yahooニュースのトップニュース八つをコピーアンドペーストしてきました[図9]。小山さん、どれに興味ありますか?
小山 「独裁者」ってのはなんかおもしろいなと思います。
野上 「バイデン氏 主習主席を『独裁者』」ですね。あとは、いかがですか。
小山 「山川への質問出る」のが西武の株主総会でちょっと違和感があっておもしろいなと。
野上 なるほど。はい。みなさん、これをYahooの画面だと思ってくださいね。このタイトルで、これを読もうか、読まないでいいかという判断をしてますよね。自分の貴重な時間を使って読んでいいのか。映画もタイトルを見て、これ観ようか観まいかって判断しているのと一緒で、みなさんの時間をここに捧げていいのかどうかの判断をしてるわけです。
好奇心のギャップを刺激する
野上 好奇心のギャップというものがありまして、目の前の情報、文章が新しくて価値のある情報だと思ったら、このギャップを埋めたくなるんです。なのでクリックして読む。こういう心理状態になってるんですね。
つまり先ほどのタイトルでは、小山さんが好奇心のギャップを刺激されてクリックするのは、「山川」もしくは「独裁者」。だけど脱毛エステでは好奇心のギャップが刺激されなかった。
小山 いわしが梅雨においしくなる理由も、ちょっとギャップがあって、なんで?ってなるし。なるほど、それを気にしてタイトルをつけられてるってことですね。
野上 Yahooなんて、日本最大級のフェスを毎日やってるようなもので、そこにいろんなニュースが山ほど来るので、そのなかで目立つようにそうとう練られた見出し、タイトルがつけられています。
みなさん、この八つ全部クリックはしないと思うんです。好奇心のギャップが刺激されたものだけを先に読みにいく。
「◯◯について」は、今日からやめる
野上 メールを書くときの件名は、まさにニュースのタイトルと一緒です。みなさんも、大量に読んでないメールがあると思うんですけれども、なんで開いてないのかっていうと、好奇心のギャップが刺激されないから、なんですよね。
逆に言うと、営業メールや、取引先とのメールでも、いち早く開けてもらって返信をもらいたいなら、件名にこそ力を注ぐ、時間をかけていただきたいと思います。
たとえば、「A社の講演会について」と、「自社特許との相関を解析、事業開発へ 。A社講演会」とあったときに、どっちのほうが……
小山 いや、これはもう明らかですね。
野上 後者のほうが好奇心のギャップが刺激されるということですね。
野上 では、どうやってやるのか。まず、「◯◯について」を今日からやめる。みなさん、今日からやめてくださいね。
実は日常的に、みなさん好奇心のギャップが刺激されてます。Yahooもそうですし、「来週のサザエさんは?」という予告もそうです。たとえば「ノリスケ涙の浴衣」というタイトル。「ノリスケ」だけ言われてもちょっと好奇心がちょっとわかない。でも「涙の浴衣」って言われると、なんだろうって、来週も見ちゃうわけです。
日常的にこういうものに触れてますので、ちょっとスイッチを入れてみると(カラーバス効果といいます)、電車のつり革広告、映画、CM、あらゆるものが、好奇心のギャップを刺激しようとしてると感じられると思います。メールの件名についても同じように使う。アテンションエコノミー(関心経済)という点でも、どうやって読んでもらうのかはすごく大事な観点です。
なんの話題? 大事なニュースは? パッと見てわかる?
野上 仮置きするタイトルには、みっつのルールがあります。いったいなんの話題か。最も大事なニュースはなにか。パッと見てわかる短さ。こういうみっつのルールです。
先ほどのYahooのタイトル、これもちゃんとこのルールに沿ってやっているということなんです。見出しの三大ルールに沿って分解してみましょう。
「不明潜水艇 捜索時に『たたく音』」
どれが「なんの話題か」っていう前提を示していますか。最も大事なニュースってこのなかでなんですか。
小山 最近話題ですから、「不明潜水艇」この五文字で話題はわかります。
野上 はい。タイタニックの不明潜水艇のお話ですけども、この話ですよと言っておいて、What’s Newとして「捜索時に『たたく音』」を入れている。これが一四文字に収まってるのがこのタイトルの妙です。
「脱毛エステで客やけど 書類送検」
これもまったく一緒です。脱毛エステで客がやけどしたっていう事件がありましたよ、あったのをご存知ですかっていうことも含めて、こういう話ですよって言っておいて、それが書類送検されましたっていう、いちばん大事なことを言っている。これだけのことなんですね。
野上 欠かせない前提を入れているのを上、入れていないのを下、優先度の高い低いを左右に置いたときに[図10]、両方とも欠いている状態である左下は、ゴミ情報です。だれも読まない。
一方で、前提だけあって、話題性の低い話を入れちゃっている、たとえば先ほどの潜水艇の話だと、潜水艇だけ言って、そのあとなにも言わないと「それで?」っていうことになる。
逆に、「なんか叩く音が聞こえたんですよ」とだけ言われても、なんのことかわからない。「いったいなんの話、それ?」ってなります。ご家庭でもあるんじゃないすかね(笑)。前提とニュース、両方備えたものを、メールの件名に入れてください、もしくはプレゼンテーションのタイトルに入れてください。
タイトルによって文章が変わる
野上 さて、またまた実例にいきたいと思います。
小山 書いた人は「あ、自分のだ」みたいな瞬間がきますね(笑)。
野上 はい。全部は取り挙げられないんですけど。
「私はビジネスを通じて社外の人からありがとうと言ってもらうことを最高の喜びに感じます。そのことに気づいたのはBMIAの活動がきっかけです。ふだんの仕事は、BtoBのビジネスが主体で、個人という企業相手のビジネスって所属するのもスタッフ部門。社内の人間としかやり取りがなくてありがとうと言える機会がなかったんだけども、BMIAの講師をやることがあって、みなさんからありがとうと言ってもらって、胸が震えました」
小山 すみません。なんだかこれ、仕込みみたいですね。BMIAの宣伝みたいになってますけど(笑)。事務局が薦めた文章ではない?
野上 ではないです(笑)。
仮見出し、タイトルを置いてから書くというトレーニングをしていきましょう。左側に先ほどの文章、右側に仮見出しの例としてふたつ、つくってみました。
ひとつめが、「BtoB社員こそBMIAの門を叩こう」ちょっとキャンペーンみたいですけども、こういうタイトルを、この文章を書こうかなと思ったときにまず置いたとする。
もしくは、自分の職業観とか、仕事に対するやりがい、ありがとうって言われてることで、BtoBで失いがちな仕事の喜びを感じることを伝えたいとすると、ふたつめのようになります。「『ありがとう』って言われてる? BtoBで失いがちな仕事の喜び」
どちらでもいいんですが、文章を書き始める前に、先に仮のタイトルを書くってことです。
手元にある情報や頭のなかの「こんなこと書きたいな」っていう状態から、前提とニュースを書いてこのようにタイトルを置くと、文章がバチッと定まって、もうすぐ書ける。
たとえば見出し1のほうにすると「BtoB社員こそBMIAの門を叩こう」というタイトルを先におきました。仮置きしたときにどういう文章が想像できますかっていうと、こんな文章ですね。
「本業がBtoBの私はコンサルタント養成のBMIAで社外の仲間やつながりを数多く得ました。講演する機会も得て『ありがとう』をもらうビジネスの原点にも触れました」
内容は変えてないですよ。同じ内容なんだけど、タイトルが違うと、これだけ入り方が違うってことです。伝わり方が違いますよね。
仮に、ふたつめの仮見出しを置くと、「BtoBの取引先や社内スタッフとの業務が多い私はいつしか仕事で『ありがとう』と言われる機会が減りました。コンサルタント養成のBMIAは失いがちな仕事の喜びを再発見できる場です」
同じデータ、書きたいこと、言いたいことなんだけども、焦点を絞ってなにを書きたいのか、タイトルを仮置きした状態で書き始めると、書く文章がまったく変わってくるという例としてご紹介しました。
小山 これすごいですね。つまり、タイトルがあるからわれわれもそのモードに入るというか、こういうことを伝えるモードの文章になるっていう。だからちょっと例は違いますけど「村上春樹ふうに書いて」みたいな、定番のお題があるじゃないですか。これもある種、見出しのような効果があって、見出しがあることによって、そのモードで書くから全体としても軸、筋が一本通るというか、そういう効果があるでしょうね。
仮見出しは北極星
野上 筋が通る。その通りだなと思います。北極星みたいな感じですかね。ここにピシッと行きますよ、そこをめざして文章を書きますよっていうのが仮見出しの役目です。最初から一〇〇点じゃなくてもいいので、いったん、仮置きして書き始めて、書いているうちに、いやちょっと違うな、僕が言いたいことは、もうちょっと仕事の喜びみたいなことだな、と思ったら、タイトルを変えればいいんですよね。仮置きなんで。それなしにいきなり書こうとするから、読み手にとって訳わかんない文章になると。
なので習慣として、「◯◯について」ではなくて、前提はこういう話ですよっていうことと、ニュース、これを伝えたいんだっていうことを、ぱっと見てわかる短さで置いてもらえれなと思います。
これが、『戦略的ビジネス文章術』のSTEP2でご提示しているフレームです[図13]。いちばん根幹というか、最初に出てくるものをいまみなさんにお伝えしました。なんの問題か、なにが大事なのかっていうのを、ぱっとわかる短さで、まず頭のなかにあるアイデアを見出しのかたちでアウトプットしておきましょう。
野上 細かい見出しのつけ方のテクニックもあるんですけども、もしご関心があれば、本を読んでいただければと思います。
小山 そういう意味では、読み手の心の準備を促す見出しは、書き手の心の準備にもなるっていうことですね。
野上 まさにそうです!
みなさんの頭のなかや手元にある資料を、ごちゃごちゃの状態でそのままゴミ山にダンプしてしまうと、ただのガーベッジ(ゴミ)になってしまいます。
仮見出しを置くことで、自分の頭の整理もできますし、読み手にとっても書き手にとってもメリットがあります。
(4)へ続く
野上英文
JobPicks編集長/ジャーナリスト
2003年から朝日新聞社で大阪社会部、経済部、国際報道部、ハーバード大学客員研究員、ジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務めた。40歳を機にマサチューセッツ工科大(MIT)経営大学院に私費留学してMBA修了。2023年からNewsPicks for Businessに参画し、同4月にJobPicks編集長就任。NewsPicks+d統括編集者も兼務してメディアの事業戦略と成長を担う。NewsPicksトピックで連載コラムの執筆、News Connectパーソナリティなどを務めるほか、ビジネス文章術やZ世代の働き方などで講演多数。大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞受賞。著書に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)、共著に『ルポ タックスヘイブン』『ルポ 橋下徹』『プロメテウスの罠4』『証拠改竄』ほか。
小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター
京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。
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