あったことをなかったことにしないために

自分の言葉は
誰かに阿たり
誰かに忖度したり
誰かに媚びたりするために
あるのではないことを
ここに記す

言葉で口を塞いで
言葉で鞭を打って
黙らせるということの残酷さは
誰もが知っているはずなのに
そこは無視できるんだと
呆気に取られている

我慢しろとか
身を弁えろとか
黙れとか
よく言えるものだ
あくどい武器を言葉で振りかざした
詩人を心の底から憂う

何が起こっても
驚きが無くなった時代は
何が起こっても
無関心でいられるし
あわよくば
ひとこと言いたげな人間が
画面の向こうで
言ってやったとしたり顔して
書き逃げできる
無責任な時代だから

そうだよね
どんなに説明を尽くしても
都合の良い解釈しかしなかったり
どこから引っ張ってきたかも
分からないような妄想を開陳したり
結局話を聞いていなかったり
そんなことばかりじゃないか
そしてそのくせ
さも正論のように語る

そして事は矮小化され
声を上げた人を疲れさせる
四方八方から知らぬ間に飛んできて
刺さった矢の数は数え切れない
そうして生きている人は
どのくらいいるのだろうか

そして考える
何ができるか
よく分からないままだけど
それでも
目の前で起きている出来事が
あまりにも惨たらしいものならば
せめて自分の想いを言葉にする

何かがあったことを
何も無かったことにはできない
それは確かにあったこと
心に無数の傷が残ったこと
それすら想像できない人間が
雄弁に自らを語らないでほしい

改めて記す
自分の言葉は
誰かに阿たり
誰かに忖度したり
誰かに媚びたりするために
あるのではない

だから言葉というものが
悩む誰かを救うものであってほしい
やみくもに傷つけるものではなくて
前に進ませるものであってほしい
言葉を使う自らに
せめてもの戒めを

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