ウケウリ

熱狂は僕を静寂に連れていくはずだった
喧騒が続く中歩く足を止めずに帰路を行く
そして目覚めた次の日もさほど興味のないまま
テレビやネットでうるさく流れるニュースを見聞きする地獄

「話だけでもついていったら?」なんて
興味のないものについていくだけでも
こちらは本当に苦痛でしかないのに
そんなものなんて誰からも無視される

正直手いっぱいである
こんなことを言っても分かってもらえない
本当に自分のことで手いっぱいだから
熱狂の渦の中でひとり空気を壊せる自信がある

もう安心して居られる場所はないんだな
何処に居ても何をしても空虚なままだ
くだらないインフルエンサーの言葉が小学生に流行り
いつまでも他人事を装う人間が増えていく

ああ今日も歪な言葉を見てしまった
あんな言葉を人にぶつけられるなんて信じられないや
だけどそんなことを言っている自分だって昔は
あんなふうだったんだと言われても笑ってすっとぼけている

確かに言葉は誰ひとり傷つけないことはない
優しそうな言葉の中にも傷つけるものはある
人はどうあがいても善人にはなれないけれど
善人のふりをした人ならごまんといる世界だ

今見えている現実に憂いの言葉を吐いても
いとも簡単にスクロールされてしまう
どうすればいいかなんて分からないまま
今日も明日も頭痛を抱えて過ぎていく

「あんなのが流行ってこれからどうなるんだろうな」
「もう正しさなんてあってないようなものだからな」
「聖人君子よりも天使のような悪魔のほうが多いよ」
日々あれだけの言葉に丸め込まれたら自分が正しいのかさえ分からなくなる

よく見てごらん よく聞いてごらん
人はいつからか上から目線でモノを言ってくるだろう?
だけどそこに自分の言葉なんてほんの少ししかない
いわゆるこれが「中身のないもの」だ

そりゃ毎日あんな熱狂の中にいたら
自分の気持ちが豹変したっておかしくはないし
そもそもドーパミンどころの話ではない
ほとぼりが冷めるまで相当の時間がかかる

アレが今まで僕が見ていた
羨ましさの正体であるのなら
なんて無駄な時間を過ごしたのだと
戻らないもののすべてに後悔するはずだ

考えることすら忘れてしまった人間は
デマと陰謀とヘイトに縋り付き現を抜かす
もう心の拠り所がそれしかなくなってしまったから
脊髄反射的にしか言えなくなってしまったのかな

僕はそうならないようにしている
けれどそれは「つもり」でしかなかったのだろう
ミイラになんかなりたくなかった
なのにミイラになりかけている

イーロン・マスクがTwitterを買った以前から
悪い気分しかしないのは続いていて
それでも信じるものがたくさんあるせいで
生きる世界自体がカオスになっていった

だんだんSNSも見飽きてしまった
情報収集には良いのだろうけど
私欲や願望まで入り込んでしまったら
熱狂どころの騒ぎではない

「こんなはずじゃなかった」って
こんなことになってしまってからでは
もはや取り返しのつかないことだろう
もう既に政治や社会も歪んでしまった

もっと丁寧に説明してくれるんじゃないの?
守りたいのは自分や味方のことばかりで
説明責任を果たすと言っては何度もはぐらかされている
逃げたくてもあなたの言葉はスクリーンショットで保存済みだよ

そうだ
このすべては ウケウリ

誰かの言葉に縋っていなければ
自分の言葉を言えなくなってしまった
まるで生命線
すべてを失うことだってある

こともあろうに大量生産されてしまった
この世界の偶像から逃げ出して
僕に考える力を
自分の言葉と身体を無くしたくはない

群衆に紛れたら
大多数の中に数えられてしまう
僕を無意味にさせるものから
今すぐ抜け出せ

「それはあなたの感想ですよね?」って
誰かを揶揄しなければ生きられなくなるなら
いっそこの世界の悪い熱狂に
静かにリセットを押そう

そうだ
このすべては ウケウリ
自分の言葉が無い
このすべては ウケウリ

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