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“慈しむ”という気持ち

 昨年末、ずっと憧れていた革のバンドの腕時計を手に入れた。
 アレルギー持ちで、肌に密着するものがどうにも苦手で、時計といえばブレスレットタイプか、金属アレルギー対応のチタンのものなど、どうしても無機質なものになってしまっていて、革のバンドの腕時計はずっと憧れだった。

 去年の晩秋。とあるドラマを見ていたときにある女優さんの手首に目が行った。
 ニットの上に革バンドの大振りの時計を装着していて、それがとてもお洒落だった。
 この方法なら、自分も革のバンドの腕時計を身に着けることが出来る。まさに目から鱗だった。

 長袖のシーズンにしか使えないのだから、いくつも手に入れる必要はない。
 本当に気に入ったものをひとつだけ。それくらいのつもりでとにかく気にいるものを探そうと、リサーチを始めた。
 来年が自分にとっての記念イヤーになる。そこまでに手に入れられればいい。
 焦りはなかったが、なかなか「これだ!」と思えるものが見つからない。
 近いものはある。けれど、なにかが違っていて、決め手に欠ける。
 そんな日々を過ごしていた。

 そして、ついに見つけた。
 きっかけは↓の記事だ。 

 俳優・赤楚衛二氏がプライベートで使用している腕時計で、インスタや写真集などでも身につけていて、変わった時計だな、とずっと気にはなっていた。
 彼が仮面ライダーの撮影が終わった記念に自分へのご褒美として購入した時計だという。
 同じ時計がほしいわけではない。
 けれど。これまでできれば日本製で、と思って探していたのに、どうしても好みのものが見つからなかったので、HPを覗いてみようと思った。
 そうしたら、そこにあったのだ。
 まさに思い描いていた通り.......いや、それ以上のデザインの時計が。
 それが写真のAmerican Classicのイントラマティックというモデル。
 もともとブラウン系で探していたのだけれど、このスモーキーな色合いに一目惚れしてしまった。
 不安要素はある。腕時計をするようになってからこのかた自動巻きなんて使ったこともないし、最近はソーラーの電波時計ばかりを使用していたので、自分に使いこなせるのだろうか?

 少し話は逸れるが、数年前に数年単位で大規模な断捨離をした。
 最初にかなりたくさんのものを処分して、その後は保留にしたものを少しずつ整理して、最終的にもう一度、大規模な見直しをしてかなりのものを処分した。
 その直後に、勤務している会社で制服が廃止になり、今度は手持ちの洋服の見直しが入った。
 さらに。足の扁平足と足裏のタコがひどくなっていて悩んでいたところにある靴屋さんとの出会いがあり、基本的なサイズが違っていたことが判明し、靴も大量に処分することになった。
 愛猫の死もあった。悲しくて、大好きな読書をする気にもなれず、編み物を始めた。そこから、苦手だと思っていた裁縫への苦手意識がなくなって、洋服のほつれや穴あきくらいなら自分で直せるようになった。
 また、長年愛用してきたコンタクトをやめて、眼鏡にすることにした。
 そこにコロナ禍も重なったこともあって、この2年ほどは自分の生活というか、生き方そのものを見直す機会になっていた。

 これまでの自分は、ものは基本的に使い捨てという感覚だったのだと思う。もちろん、大切にしてきたものはたくさんある。けれど、古くなったら捨てるという考え方だった。
 手間をかけて、慈しんで使うという感覚はあまりなかった。
 靴も洋服も直しながら使うようになって、慈しむという気持ちを知った気がする。

 ここで、時計の話に戻そう。
 今までの自分では確実に無理だったと思うこの時計も、今の自分だったら持てるのではないかと思えた。
 これからの自分の生き方を象徴するものにもなる。そう思えたので、思い切ってこの時計を購入することにした。

 今、時計を身につけ始めて1ヶ月とちょっと。
 年末に1日、まったく身につけない日があって、翌日に時計が止まっていた。1日に一度、ちゃんとリューズを巻かないといけなかったんだ、と苦笑い。
 もうひとつ。自室で何かを書くときには万年筆を使っているのだけれど、インクは注入式で、量がたいして入らない。この万年筆も色とデザイン一目惚れして購入したものだ。「ああ、またインクが切れた」としょっちゅう苦笑いさせれらている。

 けれど。
 不思議なものでこういう手間がかかることによって、ものへの愛着が深くなる。
 これまで億劫に感じていた靴磨きも、億劫ではなくなった。

“慈しむ”という気持ちを心地よく感じている自分がいて、これからはこの気持ちを大切にしていこうと思う。

 これから先、この時計を見る度にこの気持ちを思い出せるはずで、お守りに近い存在になりそうだ。
 長く大切に使っていこう。

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