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朝の萌芽

いつまで寝ていてもいいのだろうか。
朝はとっくに来ているのだと知っていても
また明日も来るものだから、と。
微笑んで身をもたれさせる人もあれば、
焦燥に胸を焼かれて顔を歪める人もいる。
わたしはどちらに見えますか、
問いたい気持ちだけが過ぎ去っていく。

今頃になって、伝えたいものがいくつあるのか思い返していた。
数えられるものでもないのに。
あと何日で全部話せるの、なんて。
きっと忘れてしまったままのこともある、それを蔑んで。

雲が流れる度に隠されてしまう日の光。
光の降るごとに白いわななきが音を奏でるようで、
静かにそれを聞き取って、耳に焼きつけたい。
夜のベランダで思い返して並べるために。
自分の手で並べた旋律は、またいつか繰り返せるかもしれないから。

だってね。
大切なものをひとつも逃したくないと思っていた。
どうしたって日々は他人の作った物に囲まれて過ぎていくものだから、
わたしの意思ではない物も、あなたの意思でもない物も。
抱えたまま眠りについたのでしょう、きっとね。

いつまで寝ていてもいいのだろうか。
朝はとっくに終わってしまったのだと知っていてよ、ときみは言う。
昔、坂を駆け上がっては笑い合っていた姉妹の話。
今はもう大人になったのだろう。
わたしは一緒に走ることができなかった、ときみは言う。
でもそのおかげで会えたよね。
朝は何度でも来るものだから、今は起き上がることができなくとも、
ここにいて。
何年後でもいい。

空を、引き破るように朝よ来て。
巨大な竜の吐息のように光は空を満たしている。
きみは照れるように目をそらして、涙に光を映している。
ようやく歩き出してもよいのだと知ることができた、
その感情に胸を押されて安堵する。
だんだんと満たされていく気持ちと、
記憶と一緒になくしていく気持ち。
そのどちらもがわたしの中で震えている。

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