Game Scoreでみる先発投手のベストゲーム
こんばんは。
つい最近2020年のプロ野球が閉幕したと思ったら、キャンプインがすぐそこに迫ってますね。また忙しくなりそうです。
ところで、みなさんは先発投手の投球をどのように評価していますか?
昨今はあまり先発投手の価値を適切に示していないとはいえ分かりやすい"勝ち"・"負け"といった記録や、"イニング数"、"失点数"、それらを総合的に評価する"QS"・"HQS"、はたまた"奪三振数"や"与四球数"、"被本塁打"といったいわゆる"3 True Outcomes"から評価することもあるかもしれません。
そこで今回はFangraphsやBasebellreferenceに掲載されている、先発投手の一試合単位の投球内容を簡易的に評価する"Game Score"と呼ばれる指標を紹介しつつ、2020年シーズンにおける先発投手のベストゲームを12球団から一人ずつ紹介していきます。
Game Scoreとは
今回紹介する"Game Score"は、2003年頃にセイバーメトリクスの先駆者Bill Jamesが考案した"先発投手の一試合単位での投球のクオリティを簡易的に表す"ことができる指標で、以下のように計算できます。
Game Score
= 50 + アウト数 + 2×(5回以降に完了したイニング数) + 奪三振数
– 2×被安打 – 4×自責点 – 2×非自責点 – 与四球数
計算式から分かる通り、新聞に掲載されるような基本的なボックススコアから簡単に誰でも計算できる点が最大の特徴で、アウト数や奪三振数といったプラス項目と、被安打や与四球、失点数といったマイナス項目を用いて評価するという比較的理解しやすい構造と言えるでしょう。
具体的には、各先発投手が持ち点50をもって初回のマウンドに上がり、積み重ねたアウト数に応じてポイントを付与、浴びた安打数や失った点数に応じてポイントを減点されるとともに、より長いイニングを投げるほど、より三振を奪うほどボーナスポイントを得られるという仕組みです。
では、具体例を用いて実際に計算してみましょう。
2020/8/21 藤浪晋太郎
6 1/3回 被安打6 被本塁打2 与四球2 奪三振6 失点4 自責点2
算出に必要な項目をすべて並べてみると、
アウト数:19(=6イニング×3+1)
5回以降に完了したイニング数:2(=5回+6回)
奪三振数:6
被安打:6
自責点:2
非自責点:2(=失点4-自責点2)
与四球数:2
となるので、以下のように計算できます。かんたんですね。
Game Score
= 50 + 19 + 2×2 + 6 – 2×6 – 4×2 – 2×2 – 2 = 53
この日の藤浪の投球をGame Scoreで評価するとスコア53の投球内容ということになりますが、FangraphsによるとGame Scoreのおおまかな目安は以下の通りで、スコア53は"概ね平均的~やや平均以上"といった評価になります。
0-10:Unspeakable
10-20:Awful
20-30:Bad
30-40:Poor
40-50:Below Average
50-60:Above Average
60-70:Good
70-80:Great
80-90:Excellent
90+:Make Sure Your Friends Are Watching
スコア90超の"Make Sure Your Friends Are Watching"は、"おい、お前この試合観てるか?チャンネル替えてみ!"みたいなニュアンスなんですかね、シャレてますね。
なお、Wikipediaによると9イニングのゲームにおけるGame ScoreのMLB記録は、1998年5月6日、CHC-HOUで9回1安打無四球20奪三振を記録したカブスのケリー・ウッドの"105"とされています。
察しのつく方もいると思いますが、"スコア80の投球"と"スコア50の投球"には明らかな違いがある一方、"スコア54の投球"が"スコア53の投球"より優れているとは必ずしも言えません。
この指標はあくまで投球のクオリティを分かりやすい一つの数値で示してみようというコンセプトのものであり、スコアが僅差の投球の優劣を測るには適していないことに注意が必要です。
ここまで紹介してきたGame Scoreは現在Baseball Referenceで採用されていますが、一方のFangraphsでは2016年より"Game Score Version 2.0"なるものが採用されています。
"ゴミ指標を生み出してしまった、、(意訳)"と嘆くJamesのGame Scoreに対し、ボックススコアから簡単に計算できるという特徴をそのままにDIPS的な要素(被安打から被本塁打を分離する、各種重みづけの変更)を加味し、より投球の実態を表しやすいものへと進化しました。
Game Score Version 2.0 (GSv2)
= 定数 + 2×アウト数 + 奪三振数
– 2×与四球 – 2×被安打 – 3×失点 - 6×被本塁打
式中に登場する"定数"は、その年度のGSv2のリーグ平均が50になるよう算出されるもので、概ね40程度となります(2020年のNPBでは38)。
前出のGame Scoreとスケールが一致するよう設計されており、数値のイメージについて特段変わりはありません。
長々と語りましたが、以下では"Game Score Version 2.0"を使って、12球団の先発投手のベストパフォーマンスゲームを振り返っていきたいと思います。
ソフトバンク
2020/8/1 vs 西武
石川柊太 9回 奪三振13 被安打1 被本塁打0 与四球2 失点0
GSv2:99
昨シーズン最多勝に輝いた石川のプロ初完投・初完封がソフトバンク先発陣のベストゲームに。
石川の特徴である高めのストレート+左のバックドアパワーカーブが威力を発揮するとともに、低めに決まったフォークは空振り率40%(=10/25)をマークするなど、山賊打線を寄せ付けない見事な投球でした。
この日西武の四番に座った外崎からは2つの三振をいずれもフォークで奪いました。
ここでも高めの直球や高めから落とすようなパワーカーブ・スライダーでカウントを稼ぐことで、追い込んでからの低めのフォークを際立たせるような投球となっています。
巨人
2020/7/3 vs 中日
菅野智之 9回 奪三振11 被安打1 被本塁打0 与四球2 失点0
GSv2:97
開幕13連勝を記録した菅野のベストピッチは、中日・大野雄大とのマッチアップとなった7/3の登板。エース同士の圧巻のピッチングにより両軍合わせて5回まで1安打だった対決は、菅野の完封勝利に終わりました。
バランスよく様々な球種を織り交ぜる中で、右打者へのスライダーとフォークが目を引きます。アウトローへの絶妙な制球によりボールゾーンで多くの空振りを奪いました。
平田との対戦ではそのスライダーとフォークで2奪三振。三振を奪った打席でもゾーン内への投球はそれぞれ1球ずつと完全に手玉に取っていたようです。
ロッテ
2020/9/14 vs オリックス
二木康太 9回 奪三振3 被安打3 被本塁打0 与四球0 失点0
GSv2:89
ロッテの若きエースとして昨シーズンから18番を背負い、チームでは美馬に次ぐ9勝を挙げた二木の完封劇がロッテ先発陣のベストゲームに。
奪三振こそ3と少ないものの、右打者への抜群の制球、左打者への高めのストレートと逃げ落ちるフォークで凡打を重ねました。
首位打者・吉田正尚との対戦では走者を2回背負いながらも4打数ノーヒットと封じ込め、丁寧な制球が光っています。
阪神
2020/10/5 vs 巨人
髙橋遥人 9回 奪三振14 被安打5 被本塁打0 与四球0 失点1
GSv2:93
他球団の主力打者からもストレートの威力を評価される虎の左腕エース候補の14奪三振プロ初完投。
この日は全体的に球速を抑えた投球で、遅いストレートとツーシーム・カットボールのコンビネーションが冴えわたりました。
右打者のインに切れ込むカットボールと外に逃げるツーシームは圧巻で、14奪三振のうち11個を右打者から奪っています。
巨人の四番・岡本からは3奪三振。
インコースのカットボール、投球割合の低いカーブ、落ちるツーシームと全て異なる球種での三振に、この日の投球術の一端が垣間見えます。
西武
2020/9/8 vs 巨人
髙橋光成 9回 奪三振7 被安打1 被本塁打0 与四球1 失点0
GSv2:95
昨季初めて規定投球回に到達し、防御率も3点台とエースの階段を上りつつある髙橋光成の"ノーノ―未遂"完封。
長身から投げ下ろす低めのストレートとスラット・スプリットの組み合わせでゴロアウトを多く奪い、時折交えるカーブ(パワーカーブ気味の縦スライダー)も効果的だったようです。
安達との対戦では第1・2打席で連続三振。インローに制球されたストレートでの見逃し三振に、アウトローに逃げるカットボールでの空振り三振と、この日を象徴するような投球となっていました。
中日
2020/9/1 vs 広島
大野雄大 9回 奪三振11 被安打2 被本塁打0 与四球1 失点0
GSv2:97
沢村賞受賞左腕が昨季成し遂げた6連続完投の5試合目。
右打者を並べた広島打線を相手に、強いストレートと鋭く落ちるツーシームの2球種を外角に集めてまったく寄せ付けませんでした。
5番・堂林との対戦では第2・3打席にフォークで連続空振り三振に打ち取っており、ストレートで簡単に追い込んだ後のフォーク(第2打席)、ツーシームとフォークの異なる落差を利用した三振(第3打席)と、球種は少ないながらも幅のあるピッチングを見せました。
楽天
2020/10/15 vs ロッテ
岸孝之 9回 奪三振13 被安打2 被本塁打0 与四球1 失点0
GSv2:99
序盤はけがにより出遅れたものの、負けなしの7連勝をマークした岸の13奪三振、プロ通算17回目の完封がトップに。
高めに美しく伸びるストレートと大きく曲がり見逃しを奪えるカーブ、逃げ落ちるチェンジアップの3球種をうまく組み合わせロッテ打線をシャットアウトしました。
3番・マーティンとの対戦では、第1打席にインコースのストレートを続け、第2打席は高めに、第3打席は低め中心と、初回の打席が伏線になっているような巧みな投球術を披露しました。
DeNA
2020/9/23 vs 阪神
上茶谷大河 9回 奪三振10 被安打6 被本塁打0 与四球3 失点0
GSv2:84
怪我に泣かされ試練の2年目となりましたが、K%の上昇等明るい兆しもあった上茶谷のプロ入り2回目の完封勝利。
阪神打線相手にカットボール/スライダーが冴えわたり、二桁の奪三振を記録しました。特に左打者の泣き所であるバックフットカッターを制球よく、高い精度で投げ込めている点は上茶谷特有のものであり、今オフにチームメイトの大貫から学んだスプリットの習得で対になる組み合わせが完成されるとさらに厄介なボールになりそうです。
四番・サンズを三振/三振/併殺/三振と完全に封じ込めており、カットボールやスライダーをアウトローに徹底して集めたことが功を奏した形です。
日本ハム
2020/10/28 vs オリックス
バーヘイゲン 9回 奪三振13 被安打2 被本塁打0 与四球0 失点0
GSv2:101
来日1年目からローテを守り、規定投球回には達しなかったもののイニング数を超える奪三振数をマーク、BB%も6.3%と低く抑え、目立たないながらも優秀な成績を残しました。
来日初完封となったこの試合はストレートの制球が抜群で、パワーカーブ系のスライダー・カーブで見逃しでも空振りでもストライクを稼げる無双状態だったようです。
2番に入ったT-岡田からは第2・3打席で2つの奪三振。積極的に高めのストレートを投じた中で似た軌道から大きく縦割れするカーブによる空振り三振と、インロービシビシに決まったストレートによる見逃し三振は圧巻です。
広島
2020/8/14 vs 阪神
森下暢仁 9回 奪三振12 被安打2 被本塁打0 与四球0 失点0
GSv2:100
新人王に輝いた森下のプロ初完封が広島のトップに。
この日は4者連続を含む、リーグ15年ぶり2回目の先発全員奪三振を達成。ストレートでの7奪三振のうち5個を見逃しで奪うなど、制球・威力ともに優れた一日でした。
サンズからは2奪三振で、いずれもカーブで奪いました。
カーブを苦手とするサンズにとって、森下の良質なストレートとカーブのコンビネーションはかなりの脅威だったと考えられます。
オリックス
2020/9/16 vs 楽天
田嶋大樹 9回 奪三振8 被安打2 被本塁打0 与四球1 失点0
GSv2:94
たびたびnoteに登場する田嶋のプロ初完投・初完封。
動画で観ても分かる通り、この日はストレートの勢いが素晴らしく、全アウトの3分の2以上をストレートで稼いでいます。真ん中付近の甘いコースでも空振りや凡打が目立ち、まさに手の付けられない状態であったことがうかがえます。
四番の浅村からは三振を2つ記録し、特に第2打席ではストライクを稼いでのはいずれもストレートと、強打者にひるむことなく直球勝負を選択できる状態であったと言えます。
ヤクルト
2020/8/15 vs DeNA
小川泰弘 9回 奪三振10 被安打0 被本塁打0 与四球3 失点0
GSv2:96
最後はヤクルトのエース、小川泰弘のノーヒットノーラン。
この日はストレートの空振り率が18.5%と稀に見る高さであり、フォークの制球も相まって10奪三振。かなり状態の良い登板であったことが分かります。
狭い横浜スタジアムで脅威となるソトに対しては3打席連続三振。
インコースのストレートでの空振り三振が2つと、比較的インコースに弱いソトの急所を球威のある直球できっちりと攻め切った結果と考えられます。
最後に
いかがだったでしょうか。
先発投手のはたらきを評価する際に、今シーズンから"Game Score"で見てみるという選択肢が広がればと思います。
それではキャンプもたのしんでいきましょう。
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