湿地より駆けアスファルトを散歩する #1

 今日の午後、私は河川敷を歩いていた。ありふれた県境の河の河川敷である。空は晴れやかとは言いがたいが、運動がてらバイオリンの先生のお宅から最寄り駅まで歩いてた。
 そうしたら一瞬理解しきれないものを見た。先に書いておくが違法性のあるものでもことさら奇抜なものでもない。むしろ色彩としては地味で形状も平凡である。しかしそれが私の乱視の視界に入り、その正体が何たるか解像した瞬間おおいに困惑した。
 馬である。
 厳密に言えばポニー、大きさならレトリバー犬ぐらいしかない。茶色いそのポニーを健康的だが品のある初老の女性が手綱を持ってそこにいたのだ。
 はっきり混乱した。雑踏でドラァグクィーンとすれ違ってもここまで衝撃を受けなかっただろう。河川敷でポニーが草を食べていたと言ってしまえば平易だが、全く想定していない存在が目の前にいる驚愕は途轍もない。しばらくはシナプスがうまく噛み合わず脳内がぐよぐよした。
 ポニーの手綱を持っている女性と話をしてみた。非常に気さくで、嬉しそうにポニーのことを教えてくれた。何でもこのポニー(名前はさっこちゃん)はこの河川敷からすぐ近所のご自宅で飼っているそうだ。
 動物園でも研究所でもなく、個人が、23区内で、ポニーとはいえ馬を飼っている。
 ニューロンが新しい回路を突貫で開通させようとして再び脳内がぐよぐよする。メディアやネット上には驚愕の事実はいくらでも転がっているが、ささやかな“びっくり”でも自身の現実として直接知るのでは衝撃が違う。新鮮な驚きと感動。さらにその磁性から瑞々しい知見を得ることができた。

今日の英語:Pony

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