見出し画像

共通テスト第2日程 国語 小説「サキの忘れ物」を高校教師が解いてみた

共通テスト第2日程 国語 第2問小説「サキの忘れ物」

画像1
画像2
画像3
画像4
画像5


本文の読解

登場人物は主人公「千春」と常連客の「女の人」が中心で、ほんの少しだけ店長とアルバイトの菊田さんが終盤に登場する。
千春と女の人の会話も、複雑な内容ではなく、量も少ないのでつかみやすい。
ただし、千春が心の中でつぶやく内容を会話と勘違いしないように注意。

本文は一読ですっと頭に入って来る。
いくつかの場面に分けてみる

1~19
・本を店に忘れた女の人が問い合わせる。
千春が本を渡す。
注文を聞く
20~44
・千春が話しかける。
女の人との対話
45~60
・「サキ」の本を買いに行く。
64~終わり
・翌日、女の人がブンタンをくれる。
昨日の、本を読んでみての気づき
ブンタンを持ち帰り、部屋に置く。

画像6

問1 語句の意味
(ア)居心地の悪さを感じた
 千春が黙り込んでしまい、女の人は、「もしかしたら~ごめんなさいね」と頭を下げる。1所在ない感じは「手持ちぶさた、特に何もすることが無い」の意味なので×。正解は4.

(イ)危惧した
 直前「正直、それだけの情報では、なんとかサキだとか、サキなんとかいう人の本を出されるのではないか」と心配するので、4が正解。

(ウ)むしのいい
 自身にとって都合のいいというのが辞書的な意味。本を読むと、「高校をやめたことの埋め合わせが少しでもできるなんて」とあるので、1が正解。

いずれも簡単ですね。

画像7

問2「何も言い返せないでいる」千春の状況や心情の説明
38行に「千春は自分が少しびっくりするのを感じた」とある、これが根拠です。「意表をつかれて」と言い換えている2が正解。
1は「彼女の境遇を察し、言葉を失ってしまった」が×
3は「何か話さなくてはならないと焦ってしまった」が×
4は「その皮肉に言葉が出なくなった」が×
5は「話題をうまくやり過ごす返答の仕方が見つからなかった」が×

画像8

問3「とにかく、この軽い小さい本のことだけでも、自分でわかるようになりたいと思った」千春の心情の説明
58行目「おもしろいかつまらないかをなんとか自分でわかるようになりたいと思った」
59行目「何にもおもしろいと思えなくて高校をやめたことの埋め合わせ」が根拠です。
5の選択肢が二つの根拠を満たします。ただ、「何かが変わるというかすかな期待をもって」の部分は、本文に根拠がありません。46行目「サキの本のことがどうしても気になって」本をわざわざ買いに行くという行動を取っていることから、本を読むことに「かすかな期待」があったと考えられます。常識的に考えて、あり得ることだと判断できます。したがって5が正解。
1は「すぐに見つかるほど有名だとわかり」が×
2は「その本をきっかけにして女の人とさらに親しくなりたいと思った」が×
3は「苦労しながらはじめて購入した本」「内容をそれなりに理解できるようになりたいと思った」が×
4は「女の人から教えてもらいたかったのに」「そのおもしろさだけでもわかりたいと思った」が×

画像9

問4「本は、千春が予想していたようなおもしろさやつまらなさを感じさせるものではない、ということを千春は発見した」千春は読書についてどのように思ったか説明する。
76行目「牛専門の画家というのがそもそもいるのか~ありえないと思ったが、千春は、自分の家の庭に牛がいて~ちょっと愉快な気持ちになった」
79行目「ただ、様子を想像していたいと思い、続けて読んでいたいと思った」
これが根拠です。

5の選択肢が根拠と合致します。「いかにも突飛なもの」「それを自分のこととして空想」「自ら想像をふくらませてそれと関わること」の箇所が合致するので、これが正解。
1は「画家の姿勢には勇気づけられた」が×
2は「苦労して読み通すその過程によって生み出される」が×
3は「事実を知ることができた」「世の中にはまだ知らないことが多いと気づくことにある」が×
4は「おもしろいとは思わなかった」「それを読むに至る経緯や状況によって左右される」が×

画像10

問5「すっとする、よい香りがした」ブンタンの描写と千春の気持ちや行動との関係の説明

82行目「ブンタンをもらったその日も、家に帰ってからどれか読めそうな話を読むつもりだった」
85行目「お茶を淹れて本を読みたいという気持ち」
この二つが千春の心情の根拠です。
5はブンタンが千春と女の人の姿を結びつけ、その香りが「本を読む楽しさを発見した清新な喜び」につながると解釈しています。無理のない常識の範囲内なので、これが正解。
1はブンタンは「千春が一人前の社会人として認められたこと」を示すというのが×
2はブンタンは女の人への「千春の憧れの強さを表している」が×
3はブンタンを「本を読むときに自分のそばに置きたいと思った」が×「自分にしか関心のなかった千春がその場しのぎの態度を改めて周囲との関係を作っていこう」も×
4は「交流のなかった喫茶店のスタッフに」が×

ブンタンの香りは「すっとする」「良い香り」なので、前向きなもの、明るいもの、良いものを連想します。それを踏まえて、根拠は少ないですが、ある程度、常識的に推測して答えましょう。

画像11
画像12

問6「女の人」について、(1)どのように描かれているか、(2)千春にとってどういう存在として描かれているか、グループで話し合います。
お約束の問題形式ですね。
(1)「うれしそうに笑っている」「笑顔で応じている」「自分の事情をざっくばらんに話して」
   「職場で配るために持って帰るのも重いとわざわざ付け加え」「もしよろしければ」
これらから、気さくかつ気遣いが認められるので、2が正解
 1は「自分の心の内は包み隠す」が×
 3は「内心がすぐ顔に出てしまう」が×
 4は「どこかに緊張感を漂わせている」が×
 5は「自分の思いもさらけ出す」が×

(2)「女の人の言葉をなんだか変な表現~千春の心に変化」「文庫本もきっかけ」「女の人から~千春の心は揺り動かされている」「わかるようになりたい」
  これらを踏まえて選択肢を見ると、
 「他の人や物事に自ら働きかけることのなかったこれまでの自分」という4が正解
 1は「目をそらしてきた悩みに」が×
 2は「後悔するばかりだった」が×
 3は仕事に意義や楽しさを積極的に見出して」が×
 5は「自分に欠けていた他人への配慮」が× 
 やや話し合いの中の根拠が希薄ですが、これも常識的に推測して考えましょう。

まとめ

高校を中退して喫茶店で働く女性の心情の変化がテーマなので、受験生にとっては感情が推測しやすい、わかりやすい題材だったでしょう。
設問は、本文中の根拠の部分が、傍線部の直近にあるケースがほとんどで、簡単でした。もう少し全体から考えさせてもいいのではないかと思いました。

主人公の微細な心の動きをくみ取る力が求められています。
本文は良い小説だと思います。しかし、設問内容は繊細すぎませんか?

第1日程の小説問題「羽織と時計」と比較すると、こちらの「サキの忘れ物」が易しいです。
従来のセンター試験では、追試験の方が難しいというのが定評でした。私自身もセンター試験の過去問を解いてみて、追試験の方が難しいと感じてきました。
推測ですが、第二日程ありと公表されたのが、昨年(2020年)6月です。その頃からあわてて作問したのであれば、難易度に差が出たことも理解はできます。
いや、もっと前から準備していた問題だというのであれば、休校で勉強の遅れが出た受験生や、コロナで第1日程が受けられなかった受験生に易しめの問題を充てるという配慮(?)なのかなと勘ぐってしまいます。

参考に
こんなサイト記事を見つけました。
好書好日インタビュー津村記久子さん「サキの忘れ物」インタビュー 選ばれるより、自ら選ぶ人生 2020.7.21
https://book.asahi.com/article/13553134 


「運命の出会い」がなくたって、「選ばれた存在」でなくたっていい――。作家、津村記久子さん(42)の新刊『サキの忘れ物』(新潮社)は、読めばそんな励ましが聞こえてきそうな短編集。
表題作は、誰かに選ばれるのではなく、自分の人生を自ら選ぼうと、小さな一歩を踏み出す女性を見つめた物語だ。

「自分の人生を自ら選ぼうと、小さな一歩を踏み出す女性」これを読んでいたら、設問もばっちり解けたでしょうね。一読をお勧めします。
この記事を見て作問したのでは、とは言いません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?