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読書レビュ―【2022/10~12月】

今までに比べると少し多く読んだので、年末ということで、三か月ぶんのレビューを今年のうちに書いておくことにしました。ついでに、最後に、今年の振り返りを少ししておこうと思います。


『かんむり』/『あのひとは蜘蛛を潰せない』/『新しい星』彩瀬まる

めちゃくちゃ彩瀬まるさんの本を読みました。過去には『不在』だけ読んでいて、他の作品が気になった衝動です。彩瀬さんの特徴は何と言っても、内側から書き上げるような女性像だと思います。『新しい星』は直木賞候補になっていますが、個人的にはこれが一番落ちるかな、と思いました。茅乃と青子が魅力的に描かれているぶん、玄也と卓馬の視点にもそれが反映されてしまっていて、男性目線だと、そんな女性的なコミュニケーションはとらないのではと思うシーンが何個かあったからです。僕の個人的な目線では、彩瀬さんは、粗雑さが隠れる人間関係の中で何かを拾うような物語ではなく、丁寧に撫でるような防衛本能の中で自分の姿を見つけていくような物語を書く人だ、と思います。そのぶん、やはり自分は女性の物語に惹かれるのかな、と。また新作を読ませていただきたいです。

『傲慢と善良』辻村深月

恥ずかしながら、はじめて辻村さんの著作を読みました。ミステリーや青春と、さまざまなジャンルを手掛けていられるぶん、この作品に初めて出会えたのは良かったです。ちょうどいま『かがみの孤城』が映画化されてブームですが、人間的なドラマに差し迫る直接的な話題設定の物語が好きなので、そんな自分の癖にしっかり刺さっていました。

『犬のかたちをしているもの』高瀬隼子

この三か月で読んだ唯一の純文学作品でした。犬のかたち、というタイトルがとにかくはまったように思いました。彼氏の不倫相手の子供を引き取る、というすさまじい設定の文章から愛について引き込まれるような感触は無類のもので、とても印象に残りました。

『夜に星を放つ』窪美澄

最後まで、どこか煮え切らない気持ちで読んでしまいました。僕は、自分が文章を書くとき「すごいことを言わないといけない病」みたいのがあって、そのぶん、読むときも「すごいものをよまないといけない病」みたいなのがあって。当作を読んでいるとき、その感じが全然しなかったんですよね。読み手として未熟なのでしょう……。

『スター』朝井リョウ

言わずもながって感じです(笑)
一生ついていきます……。

『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

めちゃくちゃよかったです……。暗い過去をもった主人公たちが、そこに光を見出すきっかけが、「声を聞かれない者として自罰的になるのではなく、自分たちも声を聞かなかったと自覚的になったこと」、だったのが、読んだ感触をすっきりさせ、かつ普遍的に問いかけられている気がして感動しました。

『ただしさに殺されないために』御田寺圭

今期で唯一の、実用書ジャンル。普段から白饅頭Noteを購入して購読しているんですが、とにかく、自分の中に無意識に内面化していた罪悪感に気が付かされるので、本当に面白いんですよね。暗い場所にフォーカスするので、題材としては面白くないかもしれないんですが、それに付随する新しい感情の発見という意味では実にためになった一冊でした。

2022年のまとめ

ということで、いつもよりは少し読書量が増えたって感じですが、書く立場としても、大きな飛躍があったのは間違いないと思います。

というのも、すばる新人賞の最終選考に残してもらったから、ですね。おかげで「ものを書いたおかげで増える人間関係」というものをはじめて経験することになりました。言ってみれば、誰に書いているのか分からない手紙に、はじめて返事が来たみたいな感触でした。

こんな文章を結構本気で書いていたのが半年と少し前、そう思うと、やばいなってなります。いまはこんなことを考えなくなったし、しばらくは大丈夫だろう、とも思います。でも、ちょっとそこらで結果が出たくらいでこんなに気持ちが反転する自分って、なんかきもいな、みたいな気持ちも、同時にあります。

とにかく今までは、「俺のこの気持ち、誰か気付いてくれ」という主眼的なモチベーションばかりで文章を書いてきた気がするので、小説というよりも「おきもち感想文」になっていたところは少なからずあると思うし、だからこそ、「誰にも気が付かれないなら書くのをやめたい」という気持ちに繋がりました。やはり、意欲の維持がいちばん難しかったです。しかし夏ごろから芽が出て、編集部の人たちから応援のメッセージをもらえたり、宮部みゆきさんや五木寛之さんなど、雲より遠いところにいると思っていた人からのメッセージをいただけたので、それだけで、寿命を延長させてくれるくらいの感動がありました。

もう、誰かに気が付いてほしいと思うフェーズは終わった気がします。だから、これからは、「気が付いてもらうための文章」ではなくて「気が付いてもらわないための文章」を書くことに力を入れようと思っているところです。小説の役割というものは自分もよく考えるけれど、いちばんは「婉曲的に人々に訴えかけること」だと思います。ルポでもなく感想文でもなく、自分は小説をやっている。編集部の力を借り、金を受け取ったうえで、それを世に広める。価値に貢献する。そういう実感が湧き始めた今、「自分の思いがちりばめられたもの」ではなく、「自分の思いなど棚上げで、読者に喜んでもらえるもの」を書きたいと思うようになりました。

あと五年くらい、三十になるくらいまではこの夢につぎ込もうと思っています。まわりへの感謝を忘れず、精進したいです。

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