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二拠点生活をあきらめた、という話

昨年くらいから「二拠点生活をしたい」と考えていた。
理由は2つ。
・自宅周辺の開発が始まり、自然が失われたこと。
・コロナ禍以降、夫がリモートワークになったこと。私自身もオンライン取材が増え、つまり夫婦でどこにいても仕事ができるようになったこと。

14年前、不便を承知で、自然を求めて山の中に家を建てたのに、周辺の竹やぶも畑も全部整地され、16軒もの家が建つことになった。
この開発については以前も書いた。2年近く前のことだ。

この記事を書いている時には、2年後もまだほとんど更地というか荒地のままになっているとは想像もしていなかった。
何も建てないなら竹やぶをギリギリまで残しておいてくれたらよかったのに、と思う。
荒地にはすぐに雑草が生え、そのたびに業者が来て草を刈る。でも家は建たないので、また草が伸びる。「建てる直前に刈ればいいのに」と思いながら、もう何度も草刈りの音を聞いている。

家が売れていないのか、資材高騰で工事そのものが遅れてしまったのか、何年もかけてちょびちょびやっているものだから、この2年ほどの間、私はずっと工事現場の中で暮らしているような感じなのだ。16軒の家が建つまで、まだ1年はかかりそうだ。(2年経ってもモデルハウスともう一軒しか建っていない。現在ようやく二軒目、三軒目に取り掛かっているところだ)

朝は8時から夕方6時まで。月曜から土曜まで工事はしっかり行われる。会社がブラックなのか、遅れを取り戻したいのか、時には朝7時台や日曜日にもそっと何かをしている音が聞こえる。
以前、家のまわりは昼間だと特に、ゴーストタウンのように静かだったのに、今では朝から晩までドリルのギュルギュルいう音や、どんどん木材を叩く音、コンクリートを流し込む機械の音などが鳴り響き、とにかくうるさい。

私はほんのちょっとの物音でも気になるほうなので(冷蔵庫の音、空気洗浄機の音なども)、工事が始まってからはいつもイライラしている。タイミング悪く治療も始まり、ほとんど家で療養しているので、この騒音から逃げることもできない。
窓から見える空は半分になり、竹やぶはなくなり、そこを住処にしていた鳥たちもどこかへ行ってしまった。ウグイスの鳴き声も聞こえない。

「もうこの家にいる意味なくなったな」と夫が言った。私のストレスが限界まできていることも察してくれていた。
「どこか自然の中に別荘を買って、二拠点生活をしようか」
そんな提案まで出てくるようになった。

実際、今年に入ってから滋賀県や三重県まで足を延ばし、何度か中古の別荘を内覧した。結構本気で探した。
昭和40年代に別荘地ブームがあったらしく、その当時開発された土地の中古別荘が安く販売されているのだ。
本来は200~300戸ほど建つような広大な土地開発だったが、実際に別荘を建てた人はわずかだったようだ。現在も別荘を使用している人となると、本当に数軒だ。
当時は「今買っておけば土地の値段が上がる」という謳い文句に乗せられ、とりあえず土地だけ購入する人が多くいたようだ。「歳をとってから移住してもいい」と思って買う人もいたという。
しかし、周辺開発は予定通り進まず、土地は値上がりしなかった。購入者も単なる不便な田舎に移住することはなく、亡くなった後に子どもたちに譲ろうとしても、みんなこんな田舎の土地はいらないと言う。
別荘探しをしていて、そんな利用価値のない土地や別荘が山ほど存在していることを初めて知った。

それが、近年、ワーケーションや田舎暮らしが注目されるようになって、野放しになっていた土地や別荘がまた売りに出されるようになったのだ。
持ち主にしたら「持っていても仕方がない土地」ということがほとんどなので、とにかく安い。小さなかわいいログハウスが480万円、ちょっと大きなものでも680万円くらいで買える。我が家は家のローンは数年前に終えているし、子どももいないので、これくらいのお値段は現実的だ。
ただし、これくらいの家だと「二拠点生活」とまではいかない。月に1、2回来て2泊くらいするのにはいいが、1週間、1カ月と「暮らす」ことを考えると不便で現実的ではなかった。(それならキャンプで十分)
本気で「暮らす」ことを考えると、やはりそれなりに設備も必要で、そういう別荘は1200万円以上はする。もしくは別荘地を土地から購入したり、空き家をリフォームしたりすれば、3000万円はいることがわかった。

すると今度は、別に「別荘」じゃなくても、「二拠点生活」じゃなくてもいいんじゃない?という話になってくる。自然にあふれた安い土地を探して、好きな家を建てて引っ越せばいいじゃないかということになった。

今の家は不便な山の上にあるといっても、「腐っても大阪府内」というか、こんなところなのに?と不思議になるほど土地代が高い。もちろん東京や一等地の比ではないが、田舎のほうだと1坪数万円~十数万円で買えると聞くので、「ここもこんな田舎なのに高いよなぁ」と思ってしまう。(1坪50~60万円)
2人で暮らすささやかな家を建てるのに買った30坪の土地が1500万円。岡山に家を建てた知人に話したら、「うちの近辺やったら100坪買えるわ」と言われた。

田舎に家を新しく建てる!!
これはすごく素敵な名案のような気がした。
けれど、人間というのは不思議なもので、いざ「引っ越すかも」と考えると、今度は今の家がいとおしくて仕方がなくなってくる。
少ない予算の中で考えに考えて、いろいろこだわった家だ。リビングの床は無垢の木に。夢だった出窓を設え、そこには花や絵を飾る。リビングはそれほど広くなくても圧迫感がないよう吹き抜けに。
和室には京都の源光庵の「悟りの窓」を模した丸窓をつけた。玄関ホールにもニッチスペースをつくり、花を飾ってライトアップできるようにした。大きな木の玄関ドアや大量の靴の収納スペース、ポストや玄関のライトひとつまで自分で選んだものだ。小さくても花壇もつくったし、姫沙羅の木とドウダンツツジも植えた。
これらがすべて失われると思うと、それは淋しい。
今の「家」そのものには何の不満もないのだ。むしろ大好きだ。取り巻く環境が変わってしまっただけなのだから。

結果、夫が「今の家をリフォームしようか」と言い出した。2階にリビングとキッチンを移し、南側のベランダを広くしてリビング続きのテラスにし、そこに鉢植えでも木々をたくさん置けばいいのではないかと。もともと高台にあるので、南側のベランダからの景色はいい。景色の半分は新たに建った家で失われてしまったけれど、まだ少しは残されている。
ただそれはかなりの大工事になる予感。実現するのかまだわからない。

とりあえず、リモートワークができることを利点とし、時々場所を変えてみることにした。
いろいろ探していると「貸別荘」というものがあり、会員になれば「5泊6日で一棟貸し」してくれるというプランを見つけたのだ。ロケーションがよく、別荘自体もきれいで豪華。それで5万円台~10万円くらいなので、かなりお安い。(2人で5泊の価格。家財道具も一式ついていて自由に使える。中には温泉付きの別荘もある)

これからまた数千万円のローンを組んで家をリフォームするとか、新しい家を買うことを考えれば、2、3カ月に一度、1週間でもいろんな別荘地での暮らしを楽しむのもいいんじゃないかと思い始めた。
実際に中古別荘をいくつも内覧し、二拠点生活についていろいろ調べ、何が自分にとって大切かを考えた結果の「ひとつの結論」だ。

というわけで、ものは試し。今週25日から熱海の貸別荘に来ている。
思っていた以上に素敵な場所で、あまりに快適なので、すでに家に帰りたくなくなっている。(が、5泊6日なので金曜日には帰宅する)
今日は本当はそのことを書きたかったのだが、「なぜここに来るにいたったのか」を説明していたらこんなに長くなってしまった。

仕事を休んでいるわけではなく、夫はワーケーション。ずっと仕事をしている。
私はこうやってnoteを書いたり、本を読んだり、窓から見える景色をぼんやり眺めたりして、ゆっくり療養中。
詳しくは次回の記事で。

※トップの写真は貸別荘の部屋から見える景色

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