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酒のない人生なんて。

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日本酒ライターが語る、酒のあれこれ。
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#私の仕事

日常生活をちょっとだけ豊かにするツール。地酒は「民藝的であるべき」ということ。

「地酒」という言葉がある。 その字面どおり、「地域・地元」で造られている「日本酒」のことだ。 いろいろな酒蔵を取材していると、よく「真の地酒とは……」という話が蔵元さんから出る。 たとえば、その地域で造っているというだけでなく、その地域の米・水・人で醸してこそ、それは「地酒」と言えるのではないか、とか。 東京で飲まれている有名なお酒が、実はその酒蔵の地元では流通されていない、なんてこともある。それって本当に「地酒」ですか?と疑問を呈する蔵元さんもいるわけだ。 「真の地酒」を

89歳の「酒造りの神様」から学んだこと

「次の取材は農口尚彦研究所に行ってください」 クライアントからそう言われたとき、ついにその日が来たのだと思い、武者震いした。 「農口尚彦研究所」は、杜氏(製造責任者)である農口尚彦さんの匠の技術・精神・生き様を次世代に継承することを目的として2017年に設立された酒蔵だ。杜氏の名前を冠した酒蔵など、全国を探しても他には存在しない。 では、「農口尚彦さん」とはどういう人なのか。 「能登杜氏四天王」や「酒造りの神様」と呼ばれている、いわば「杜氏界のレジェンド」だ。ご年齢はな

日本酒初心者にやさしくありたい。

友人と「常時日本酒が数十種類あります」というような、地酒を売りにしている居酒屋へ行くことがある。 ずらりと銘柄が並んだ日本酒リストを見ると、私はテンションが上がるが、日本酒をそれほど飲まない友人は、私に「任せるわ」と言う。長く付き合いのある友人であれば、だいたい好みは把握しているので、「じゃあ、これにする?」と間違いないものを選んであげる。 しかし、私と一緒なら選んでもらうことができるが、自分だけだったら「知っている銘柄」を探すのがやっとで、「そんなリストは面倒なだけだ」と

決して揺らぐことのない醸造哲学をもつ蔵元たち

4月20日に私がライターとして取材・執筆している日本酒の業界誌『酒蔵萬流』32号が発行された。 ▼酒蔵萬流についてはこちらから▼ 私の今号の担当は、 ●今西酒造(奈良県)「みむろ杉」「三諸杉」醸造元 ●川西屋酒造店(神奈川県)「丹沢山」「隆」醸造元 ●天理すぎ乃 本店(奈良県) ※今西酒造に推薦していただいた飲食店 (敬省略) 今西酒造、川西屋酒造店、まったくタイプは異なるが、どちらもしっかりとした「醸造哲学」を持って酒造りをしている酒蔵だった。 取材の裏話など、今回も

日本酒専門バーのスタッフをやってみたら……

「好きなことを仕事にするほうがいいのか」という話題はいろんな人の間でよく挙がるし、noteでも何度かそんな記事を見かけたことがある。 少なくとも私は、25年もライターの仕事をしているけれど、ただの一度も嫌だと思ったことはないし(自分の才能のなさに打ちのめされることは幾度もあったが)、仕事はずっと楽しい。好きなことを仕事にできてよかったし、幸せだと思っている。 ただ、他の職業も経験してみたかったと、少しだけ欲張ってしまうことはある。学生時代のアルバイトも含めれば、飲食店、ケ