【8/14 】獅子座22度

待ち合わせ場所の新宿西口交番の前に着いた。相手はまだ来ていないようだ。スマホにはLINEの通知が来ていて、大江戸線の新宿駅に着いたとメッセージが来ていた。大江戸線はここから少し遠いが10分はかからないだろう。
ここはいつも鳩が多い。割と肥えてるやつが多くて、人を怖がる気配がない。ここの鳩はなんだかふてぶてしい気がする。
そうこうするうちの兄がやってきた。
「待たせたな」
「いや、今来たところ」
兄と地下街の目についた適当な喫茶店に入った。兄が壁側の席に座って、自分はその向かいに座った。
兄とはよく似ている。双子だから当たり前なのだが、よくこれを利用して、イタズラをしたものだ。
大人になっても収まるどころかエスカレートしていって、入れ替わってデートに行って相手の反応を楽しむという悪趣味なこともした。当時の恋人には随分と怒られた。兄はそのあとすぐ恋人と別れたと思う。
兄がわざわざ俺を呼びつける理由は、昔からたいてい下らないことだ。今回もそうに決まっている。

「単刀直入にいう。俺の代わりに妻とその…セックスをして欲しいんだ。」
「はぁ?」
それは義姉の同意があってのことなのだろうか。
「もう、お前だから話す。俺は寝取られというものが好きだ。そういう趣味の人間はいくらでもいるから、今まではそういうやつを探していた。でも俺は思った。俺と同じ顔の人間に妻が寝取られているところが見たい。」
「そうなのか.…」
子供の頃にお互いのフリして母親を揶揄っていた記憶が甦る。
そういうイタズラの言い出しっぺはいつも兄だった。子供の頃から、兄には何か思うところがあったのだろうか。思い返すと、デートに代わりに行かされたのも、そういうことだったのか。

兄と数分話しただけなのに随分疲れた気がする。
ただ、義姉の同意を受けていると聞いて少し安心した。当日の段取りは義姉とやりとりしろと言われた。どうやら、もうやることにされてしまったらしい。義姉に電話をかけた。7コール目で電話に出た。

ーもしもし?
ーはい、もしもし。兄が君とのセックスを持ちかけてきた。
ーそう…うまくいきそう?
ーなんかもう、やることにされた感じ。
ーふふ、もうとっくに私繋がっているのにね。
ーそれもそうだな。にしても、あいつ寝取られなんか好きだったの?
ー多分ほんとうよ。だって、あなたが昔の彼女とデートしてるとこ、わざわざつけて行ったみたいだもの。それで興奮したって言ってたのよ。
ーうげぇ、変なやつ。
ー双子のお兄さんでしょう?
ーまぁそうだけど。
ーあなたも大概よ。
ー兄貴の好きなものなんでも欲しくなるんだよね。
ーそう、仕向けられてるんじゃない?寝取られたいもんだから。
ー怖いこと言うなよ。
ーふふ、でもあなたが1番よ。
ー嘘だろ。
ー嘘でもそう言うの。寝取られたい人は、「あの人が良かった」って言ってもらいたいんだから。あ、彼帰ってきたから切るわね。
ーおう、またな。

「弟と喋っていたんだろう。」
「うん。」
夫が妻の胸を弄ると、ほのかに甘い吐息が漏れた。
「楽しみにしているよ。君が弟に犯されてるところがみたいんだ。」
変態ね、と言ってやったが、そんなことは分かりきって結婚した。
今夜も楽しい夜になりそうだ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?