列車は走る、海の中に花弁を浮かべて

列車は走る、海の中に花弁を浮かべて
見てしまった、私は。汗臭い制服を着て、列車を待っていた。早くシャワーを浴びて、お父さんが作ってくれる晩御飯を楽しみにしながら。
今日はお母さんは夜勤、だからお父さんが「今日はお父さんが特製の唐揚げ作るから、待ってなよ、真菜」と笑顔で送り出してくれた。
バスケのレギュラー争いは疲れる。中学と格は違うし、皆バンバン、シュートを決めて、コーチが笑顔を見せる。私は臆病になり、憂鬱になっていた。「お父さん、唐揚げ美味しくだよ…」食べ盛りもあってお父さんの唐揚げに期待していた。
聞きなれない汽笛音が聞こえた。その時だった、水の塊のような何かが向かってきた。
「水…え、なにあれ」驚いた真菜がこう聞こえた気がした。
[次は海底行き、花柱列車、次は海底行き、花柱列車。黄色の線までお下がりください]
何?海底行き?ここ山じゃん?意味わからな…と思った真菜の前に水の中に花びらが浮かんだ「なにか」が止まった。気づかなかったが、隣には両親の親くらいの老婆が杖を着いて立っていた。静かに語る。「お嬢ちゃん、乗らないのかい?」驚いた真菜は首を横に振るのが精一杯だった。
「そうかい…この列車は海底に花弁を浮かんで走るんだ…桜なんかより綺麗だよ……もう1回聞くけど乗らないのかい?」
真菜は驚いたが、自分の中で桜が一番綺麗だと思っていたから思わず「わ、分かりました」と返事した。老婆は慣れたように、ボタンを押してドアを開ける。杖もつきなれてるように。
驚いた真菜。中は花びらが浮き、水中に居るのだ。呼吸は出来る。老婆は座席に着く。
「お嬢さん、今から海に向かうよ!花びらを届けに!」
すると世界が変わった。海中に居るのだ。キラキラと光る花弁。見惚れる真菜。時が1秒1秒すぎると輝くのだ。
そして気づく。「あ、唐揚げ…」


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