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—Transparent girl in blue—
❇︎Prologue❇︎
たなびく風に運ばれてゆく記憶の行先を、ぼくは知らない。けれど、この風はきっと誰かへと手向けられていて、紡がれ、結ばれる為に吹いている。そして、幾つもの月日を越えて、記憶のありかへと巡り着いたとき、ぼくたちはそれを、愛と呼ぶのだと思う。
01girl 『あめの温度』
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あめの足音をなぞるように泳ぐ魚たち。
窓辺から届く草花の匂いが、紫陽花の彩りをつくり、
やがて、水のなかへと沈み虚っていく。
あめは、古い記憶を連れ立ってくる。
しとしと、しとしと、と
水中花がひらくように、記憶の香りで満たされてゆく部屋のなか。剥がれ落ちた鱗の欠片を、魚たちが物憂げに見つめるけれど、もうソレはもどらない、カケラ。
胸のおくでジンワリと感情がとけていく。
しとしと、 と 、。
溢れ落ちた感情は、儚く、薄れてしまう。
けれど、きみがくれた温もりだけは、あめの訪れと共に何度も何度も、わたしの中を巡っていくのです。
02girl 『bitter』
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69789054/picture_pc_6d941f69b1d8f5fe1fb8af3f264d1051.jpeg?width=800)
くちのなかに残る苦味が、夕焼けと重なる。
ボンヤリと浮かぶ記憶の輪郭。それが、吐き出す煙のように消えてしまいそうで、滲む。
点滅を繰り返しながら進む飛行機
光を産み出すビルの眼
四角い箱の中で営まれる幸福
現実は、どれも煙草と同じ味。
塩っぽさも、甘さもない、苦味。
水槽の中を漂う熱帯魚みたいに、限られた空間だけできみは生きている。きれいなままに、愛おしく。
蒸し暑い午後を翻しながら、トワイライトブルーに染まりゆく世界
部屋のなかへと吹き込む風が、冷ややかな憂いとなって肌を撫であげた。
鋭利な月に乗って、きみが生きていた日まで流されてしまいたい。塩っぽさも、甘さもあったあの過去へ。
非現実な願いだなんてわかってる。けれど、きみの居ない世界が、非現実なまま暮れていくんだ。
03girl 『まじりけのないブルー』
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69284558/picture_pc_5119de2ddf9dfbf95550be46d65d3505.jpeg?width=800)
まじりけのないブルーのあじがした。それはたぶん、せつなさを混ぜて出来ているから。しあわせだとか、ふしあわせであるものの、ぜんぶ、ではなくて、すこしだけ、おとなになるためのあじ。それを、浮遊する金魚がゆっくりとたべて、ゆらいで、月が、きのうを奪っていく。ちいさな幸運が、あしたを産むように、まじりけのないブルーが、わたしの中で溶けてなくなるような、そんな気がした。
04girl 『Transparent girl』
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69786105/picture_pc_425b05c3330c5fce27b283dc6b30b90c.jpeg?width=800)
きみが待ち合わせに来ないのは、きっと、このみずに含まれてしまったからなのだろう。だから、きみの声や、匂いや、温もりが、ぜんぶ、さかなになって、わたしを通りすぎて行ってしまう。
星乃団地前交差点。赤をしめす信号機。鳴らない電話が息になる。
空と海が、おなじ色であり続ける為に、まっすぐ見つめあうけれど、その距離が永遠、近づくことがないように、わたしたちもきっと、永遠、なのだとおもう。
だから、最後にひとつぶだけ、この涙がこのみずに含まれて、きみのただしさを忘れてしまうよりもまえに、
さよなら、という嘘で、きみがぜんぶ終わりますように。
05girl 『ツキノクジラ』
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69604081/picture_pc_68a11f548d172e769d43e0da6b192023.jpeg?width=800)
月のクジラが降りてきた朝、世界は輝きを見せていた。
スイッチひとつで切り替わるように明暗をつくりだすそれは、掌に収まるくらいのちいさな真空の世界。
たったひとつの言葉に込められた想いも、願いも、理由も、朝焼けも、全部、閉じ込めてしまう。
ゆらゆらと泳ぐクジラの尾鰭に絆されてゆく大気の道筋。プランクトンたちの放つ光が、太陽の火にかき消されてしまうまでのあいだ、想いを繋ぎながら、引かれた線の軌道をたどる。本のページを捲るようにゆっくりと、確かめながら。
例えば、この真空世界が空気で満たされて、弾けとんだとしたら、きみはわたしを探しに銀河の果てまで旅に出るだろうか。
恍惚と染まる空の袂で、わたしはポケットのなかにしまわれた、おおきな掌を握る。離さないでねとわたしは言う。
温かさに縁どられていくわたしの粒子を、きみはどれだけ受け止めてくれるのだろう。
わたしが、太陽の火にかきけされてしまったとしても、きみは、きみだけは、わたしの光を忘れないでいて。
END
*************************special thanks
illustration by wacca
https://wacca005.carrd.co
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