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【小説】弱くても、されどワン・ツー(全5話 まとめ)

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はじめて小説を書きました。全5話で完結です。 (続編も書く予定です) 不器用ながら今を精一杯生きる主人公や家族との繋がり、社会やコミュニティへの参加や葛藤などを詰め込みました。 …
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弱くても、されどワン・ツー~第一話~夢を捨てた日

「弱くても、されどワン・ツー」~第一話~夢を捨てた日目次:ページを分けてお話を書いています。 ・一話(夢を捨てた日)→当ページ ・二話(出会い)→次ページ(一番下にリンク先のURLが有ります) ・三話(青天の霹靂)→次ページ(一番下にリンク先のURLが有ります) ・四話(亀裂)→次ページ(一番下にリンク先のURLが有ります) ・最終話(マーチを一緒に)→次ページ(一番下にリンク先のURLが有ります) 【登場人物】 ・ADHDの美容師/ 泉 和生人(23歳)いずみ なおと:主

弱くても、されどワン・ツー~第二話~出会い

弱くても、されどワン・ツー~第二話~出会い 家の玄関のドアが勢いよく開かれる音で、その音の主が和生人には分かった。そのまま二階にドカドカと上がってくる足音がして、部屋の扉がノックされた。 雅人「おーい、俺だ。お前の職場から連絡があってよ、来てみたんだ」 兄貴の声だ。誰かと一緒なのか、楽しそうに「な?」と話す優しい雰囲気が伝わってくる。雅人は、和生人にとって父親のような存在で、大きく、力強く、いつも笑顔でみんなを笑わせてくれる。とにかく太陽みたいに真っすぐで明るい人だ。

弱くても、されどワン・ツー~第三話~青天の霹靂

弱くても、されどワン・ツー~第三話~ 青天の霹靂 大河が他の子より、話すのが遅いと兄夫婦が気付いたのは[幼稚園の入園面接]がきっかけだった。 この時に面接した先生が聞く質問に、大河は答える事が出来ず沈黙が続き、園長先生から家での様子を詳しく聞かれ、沙月は、 名前を呼んでも返事がなく、返事に代わるリアクションもあまりないこと。目が合う回数が少ない事や、教えた物や人(車や、バーバ)に対しても興味関心が少なく、静かに一人で遊んでいることが多い等伝えると、発達の遅れがある可能性が急浮

弱くても、されどワン・ツー~第四話~亀裂

弱くても、されどワン・ツー~第四話~亀裂 いつもは家に来ても声を発さない、大人しい大河。しかし今日は「うーぅ」「あー!!」という音の様な、大きな声を発している。 雅人も大河の落ち着かない様子に、 雅人「今日は髪切るの、やめとくか?」 と聞いてくれたのに。 和生人「いや、前髪だけだし。すぐ切っちゃうよ」 大河の気持ちを確認する事なく、自分ファーストでさっさと準備を進めていく。 本当に、俺の悪い癖だ。大河の気持ちを無視して。周りをちゃんと見れていなかった。自分のやりたい気持ちば

弱くても、されどワン・ツー~最終話~マーチを一緒に

弱くても、されどワン・ツー~最終話~マーチを一緒に 和生人は布団を深くかぶった。もう誰も自分に関わってほしくなかった。 ドカドカと階段を上がる兄貴の足音がする。頼むから、お願いだから、もうやめてくれ。 扉の前で足音はピタリと止まった。和生人は必死に息を殺していた。 時計の秒針の音だけが、体を突き刺すように部屋に響く。 心臓が早鐘を打ち過ぎて痛い。呼吸がままならず、苦しい。 カッターは和生人の手の中にあり、そのまま布団に隠れる様に息を殺す。 (兄貴が来なかったら今頃俺は…