生命進化の偶然性に対する反証
生物進化の歴史においてDNAの組み換えはランダムではなく一定の選択圧の下に行われてきた。こうした選択圧の発生に決定的な影響を及ぼしたイベントには自己増殖作用、代謝・エネルギー産生、感覚器官の発達、運動器官の発達、神経系の発達などの基幹機能の発生がある。これら選択圧発生のトリガーになる遺伝子改変が完全にランダムに起るという仮定の下、人類発生までにどのくらいの時間を要するのかを計算する事で、重要なDNA進化が偶然性に支配されているのか、あるいは何らかのアルゴリズムないし設計思想の下行われているのかを推察する事が可能である。もし理論上のDNAの探索時間が海洋誕生以降の時間よりも数桁大きいならば、そこには環境に依存した選択圧以外の何らかの設計思想の存在が示唆される。
選択圧とは特定のDNAを持った個体の増加を阻害する要因である。適応度は個体数の増加率に比例するものと定義する。また適応度の逆数を選択圧と定義する。選択圧は基幹機能の発生後に生じる。即ち特定の配列を持ったDNAの個体数が増える事で、それ以外の配列を持つ個体が増加しなくなる現象である。選択圧発生以降の遺伝子組み換えはランダムではなく、何らかのランドスケープ上の勾配に従って決定される。また有性生殖においては組み換えが発生する場所が限定されているため、これも完全なランダムではなく一種の選択圧とみなせる。ここで問題として取り上げたいのは、自己増殖・代謝・感覚器官・神経系などの基幹機能の発生が既存配列(あるいは完全なランダム配列)を鋳型としてそこから連続的に探索されるのか、一定の確率分布に従って発生するのか、あるいはそうしたコードが突然アノマリー的に現れるのかという点である。
増殖・代謝・外界の知覚・反応速度の向上という外部仕様をもとに、重合・分解・光受容・イオン輸送に関する物理現象の理解や発生過程のプロトコルを組み込んでトップダウン的に配列に当たりを付けた場合と、各種確率分布を使ってランダムに配列を生成した場合において、実際の進化速度に近いアプローチがどちらなのかが分かれば、進化が偶然に支配されているのか、物理法則や自己組織化のプロトコルを前提とした設計に依拠しているのかが判明するかも知れない。もし後者のシナリオの方が実際の進化速度に近かった場合、DNA配列は物理現象や発生過程の知識を使って設計されている可能性が浮上する。つまり人間が生物を設計するのと似たような方法を用いて、人間自身を含む生物全体が設計されたという可能性である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?