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鉄道絵本レビュー(5) かもつれっしゃのワムくん

鉄道絵本紹介、第5弾はこの本です。

「かもつれっしゃのワムくん」
作:関根栄一、絵:横溝英一
小峰書店


出会いは図書館で


この本とは最初、図書館で出会いました。

絵を担当されている、横溝英一さんの絵本は、他にも読んだことがあり、こんな本もあるんだ!と早速借りてみました。

表紙をめくると、見返しに国鉄型電気機関車EF66が牽引する貨物列車のイラストが描いてあります。
このイラストは、図鑑的な側面からの絵で、形式名も入っており、テツとしては早速ワクワクします。

また、本編もそうですが、車両は長さ方向にややデフォルメしたサイズで描いてあり、これがまた可愛くてイイ感じです。

モデルになった鉄道は


さて、絵本の内容に入ると、地方私鉄の駅の側線に置かれた貨車、有蓋車(屋根のある汎用貨車)のワムくんが主人公のお話です。

この地方私鉄ですが、話の最後に出てくる、ワムくんの横を走っていく電車の行き先が「葛生」となっているので、東武佐野線がイメージされます。

途中で出てくる駅の駅名標には「ただ」とあり、佐野線の終点、葛生駅の隣は多田駅なので、これは佐野線がイメージの源泉の一つになっているのは間違いないかな、と思いました。

実際佐野線はかつて貨物輸送が行われており、多田駅にも貨物列車用の中線があったようです。
ただ(ダジャレではない)、佐野線の貨物は主に石灰石輸送だそうで、この絵本のように、多田駅に貨物用ホームがあって、サイダーの積み込みが行われていたわけではなさそうです。

余談ですが、葛生駅は、かつて東武鉄道の一大貨物ターミナル駅で、葛生から先に3つの貨物専用線があって、そこから石灰石やセメントが集まり、伊勢崎線の業平橋まで輸送されていたそうです。
自分も以前葛生駅を訪れたことがあり、確かに往時を偲ばせる広い構内だったことを思い出しました。

駅名から推測するあれこれはそんな感じですが、最初と最後に出てくる電車は東武っぽくないように思えます。

この電車の、朱色っぽい赤系の色とクリーム色のツートンカラーは、かつて全国各地の地方私鉄に見られた塗色ですが、葛生の近くの地方私鉄(上毛電鉄、上信電鉄、わたらせ渓谷鉄道など)にはそういうカラーの電車はあまり例がなさそうですね。

1977年(昭和52年)、上毛電鉄に元西武鉄道の電車(クハ1411形+モハ351形)が、西武時代の朱色とベージュのいわゆる「赤電色」のまま入線していて、わりと近いカラーですが、車両の形態はそれとは違う感じなので、いろいろとイメージふくらむ「とある地方私鉄(または大手私鉄のローカル支線)」感がよく出ている、ということで良いのではないでしょうか。

時代設定について


この物語の年代的には、EF66の登場が1968年(昭和43年)なのでそれ以降、私鉄の貨物輸送は国鉄末期に大半が廃止されていることから、分割民営化の1987年(昭和62年)より前と考えられます。

というより、この本が1984年(昭和59年)第1刷発行なので、1960年代終わり頃から1980年代初めあたりまでの間が舞台のお話、ということになりそうですね。

ローカル私鉄から国鉄へ


さて、とある田舎の駅(葛生駅か!?)に長いこと留置されていたワムくんが、ある日りんごを積まれ、電気機関車に引かれて出発します。

この電気機関車の(ED49840)という名前ですが、49840は「よくはしれ」と読み、語呂合わせになっています。

実物でいうと、国鉄ED14かED19、またはED16の車長を縮めた感じ!?が近い気がしますが、どうでしょうか。

東武鉄道にも、かつてはこの本に出てくるようなED級の茶色い小ぶりな電気機関車はたくさんいました。
が、ボディが溶接構造でやや丸みのある車体の車両がメインで、この本に出てくるようなリベット組立の角張った車体の電気機関車は、あまり例がなさそうです。

ハワムの「ハ」とは!?


さて、出発した貨物列車は、途中の「ただ駅」(ななつめのえき、とあるので佐野線そのものが舞台でないことがここでもわかります)で、サイダーを積んだハワムを連結したりしながら、私鉄から国鉄に入っていきます。

ところで、ハワムの「ハ」って何でしょう?「ワム」が有蓋車のことだということはテツな人なら大抵わかると思いますが、頭に小さい字で付く「ハ」については、自分はそういう記号があるのは知っていたものの、どんな意味があるのか今まで知りませんでした。

そこで調べてみると、「延長換算両数(8mを1両として換算した両数)」というものがあり、絵本の中でサイダーを積んでいる、ワム80000という形式は全長9.6mなので、9.6÷8=1.2となり、延長換算両数1.2の場合は「ハ」を付ける、という解説を見つけました。

列車の長さは、例えば単線区間の駅で行き違いのために停車したときや、側線に入った時など、対抗や追い越しといった場面で他の列車に支障がないための列車の長さの限度がありますよね。
特に貨車は形式によって全長がまちまちなため、延長換算両数を用いて簡便に列車の長さを計算することができる、というものらしいです。
でもなんで「ハ」なんだろう?

そこでもう少し調べてみると、ワム80000は、それまで人力で主に行われていた有蓋車の荷役作業を効率的にするために、パレットを使用して、フォークリフトで積み下ろしできるようにした形式で、「パレット荷役用有蓋車」という特徴を示すために車番標記の前に「パ」の小文字が入れられ、それがのちに「ハ」に変更されて「ハワム」になった、という解説もありました。

こちらの方が、なぜ「ハ」なのか、わかりやすいですね。ただ、どっちが正しいというよりは、「パレット荷役用で、かつ従来車より車長が長い」という特徴を示す必要が実用上あり、そのための「ハ」だった、ということなんでしょうね。この「ハワム」ことワム80000型は1960年(昭和35年)から1981年(昭和56年)まで21年間に、26,605両も製造され、これは1形式の製造数として、日本の鉄道史上最多だそうです。

ワムくんのモデルは


「ハ」が気になって、話がだいぶそれました(笑)。主人公のワムくんは、国鉄ワム60000形の改良型である、国鉄ワラ1形と同型の、東武鉄道ワラ1形がモデルになっているらしいです。

東武鉄道ワラ1形は1964年(昭和39年)から1966年(昭和41年)にかけて120両製造され、国鉄にも乗り入れていた有蓋車で、色はワムくんが「ハワム」と同じとび色なのに対し、黒でしたが、扉に社紋が入っていて、その位置がワムくんと同じだったようです。

都会への旅


さて、初めて国鉄線に乗り入れたワムくんは、大きな操車場に着き、そこでたくさんの様々な貨車と出会います。
この場面の、ハンプ(貨車を重力で転送させ、方面別に仕分けるための丘)のある操車場を上から眺めた絵も、テツならワクワクする眺めだと思います。

そして長編成(見えるだけで18両はある)の貨物列車に仕立てられ、国鉄の高速貨物列車用電気機関車であるEF66に牽引され、旅を続けます。

そして長旅の末、また操車場に着いて切り離され、今度は海沿いの工場地帯の路線でタキばかりの短い列車に連結され、港の小さい駅に着きます。

この駅は、茶色い旧型国電(クモハ12か?)と一面のみのホーム、貨車の集う数本の側線と、鶴見線や南武線の浜川崎支線あたりを思い起こさせますが、ちょっと調べた限りでは、そのものズバリの雰囲気の駅は見つけられませんでした。

配線だけでいうと、鶴見線の大川駅が近い雰囲気かなと思いますが、どうでしょうか。高架駅ではないし、海は見えないけど。この駅の絵も、小さな高架ホーム、貨車の停まる側線、柵の向こうに見える工業地帯と海、と魅力的な要素がふんだんに盛り込まれていて大好きです。

そして、太平洋へ…


そこから「いままでにみたことがないかしゃ」たいへいようせんのヘムに連結されて、海底トンネルに入っていき、急に話はファンタジーな方向に展開するのですが、鶴見線沿線には、日本鋼管川崎製鉄所専用鉄道という専用鉄道があり、そこにはヘムという形式名の貨車がいたらしい、とか、ヘムの潜水艦のような魚のような形は、溶鉱炉から溶けた鉄を運ぶトーピードカーに似た形のものがあったりとか、それなりの背景があって想像されたもののようです。

気になりだすとまだまだ調べてみたくなることがたくさんある、テツ分豊富なこの絵本ですが、長くなりましたのでこの辺で失礼します。

1984年第1刷発行で、自分の手元にあるのが2007年の第22刷なので相当なロングセラーですが、現在は残念ながら絶版になっているようで、自分はその後古本で購入しました。ぜひ復刊をお願いしたい一冊です。

〜この絵本に登場する車両〜


電気機関車

国鉄EF66
とある地方私鉄ED49840(国鉄ED141619あたりがモデル!?)

電車
とある地方私鉄の旧型電車(形式不明)
国鉄クモハ
12

ディーゼル機関車
国鉄DE10

貨車
ワムくん(東武ワラ1がモデル!?)有蓋車
タム4192(タム4000 ?)タンク車
トラ70423(トラ70000)無蓋車
ヨ(ヨ6000 ?)車掌車
ハワム(ワム80000)有蓋車
ツム152831(ツム1000)通風車
5000 車運車
ホキ2200 ホッパー車
コキ10000 コンテナ車
レム6000 冷蔵車
チキ 長物車
トキ 無蓋車
セラ 石炭車
カサ 家畜車
シキ 大物車
タキ タンク車
ヘム 謎の貨車
他(形式不明車多数)

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