鉄道絵本レビュー(12) ふみきり!
鉄道絵本紹介、第12弾はこちらです。
「ふみきり!」
作・絵:いわぶち やすじ
新風舎
「踏切もの」の絵本紹介も3回目ということで、今までとちょっと雰囲気の違う踏切絵本を紹介したいと思います。
CGで作画されている絵本
今回の絵本「ふみきり!」の絵は、今まで紹介した絵本とは異なり、CGで作成されています。
写真を元に加工しているもののようですね。
全ページ同じ踏切の絵で、画角も変わらないという特徴もあります。
舞台になっている踏切は
舞台になっている踏切は、京浜急行電鉄の空港線にあった、「京急蒲田第一踏切」で、国道15号(第一京浜)を横切っていた大きな踏切です。
京急蒲田駅で京急本線から分岐する京急空港線が、急カーブしながら早速渡るのがこの踏切で、半径80m (制限速度25km)の急カーブという制約からか、この区間だけは複線化されず、単線のままでした。
毎年正月に行われる箱根駅伝の際には、駅伝に影響しないよう、1月3日に、通過時間のばらける復路の選手の通過時刻に合わせ、本線直通を止めるなどのダイヤを調整していたことでも知られています。
2001年(平成13年)2月から始まった、京急蒲田駅付近連続立体交差事業による線路切り替えで、2012年(平成25年)10月21日から高架化され、この踏切は廃止されました。
空港線について
京急空港線は、かつては穴守稲荷への参拝客を見込んで作られた路線で当時は穴守線といい、開業はなんと1902年(明治35年)だそうです。
羽田空港が出来てからは空港への旅客輸送の需要もありましたが、1964年(昭和39年)に東京モノレールが開通すると、空港敷地内に乗り入れたモノレールに比べ、京急空港線はアクセスが良くなく、空港アクセスのための鉄道としてはあまり機能していませんでした。
その後、空港線は1998年(平成10年)に延伸し、羽田空港駅(現在の羽田空港第1・第2ターミナル駅)が開業し、旅客ターミナルビルと直結するようになりました。
それからの空港線は、羽田空港へのアクセス路線として、都営浅草線・京成押上線・京成本線・北総線・成田スカイアクセス線を経由して成田空港まで直通列車が走るようになり、京急線内でも品川方面だけでなく、川崎・横浜方面からも直通する、メインラインへと大きく変貌しました。
そのような中でもダイヤ上のネックになっていた、単線区間にあるこの踏切ですが、趣味的には急カーブを色々な会社の列車が次々と車輪を軋ませながら通過していく、楽しい区間でした。
絵本について
この絵本はその頃の京急蒲田第一踏切の1日を描いています。
先ほども書いた通り、全ページに渡って同じ画角の絵で、1日の定点観測、といった雰囲気です。
表紙と裏表紙と扉は、サイズが半分なのでトリミングした感じですが、本文中のの15枚の絵は、画角もサイズも一緒です。
思い切った構成ですよね。
表紙は京成3500形(更新車)、扉は京急2000形です。
本文は、まずは電車が通る前(始発前!?)、自動車の姿もなく、カラスが騒ぐ音から始まります。
そして、自動車や人が行き交う朝の忙しい時間帯が描かれます。まだ電車は登場しません。
その次のページでは、京成3700形が踏切通過の場面です。「カンカンカン」と音が鳴って踏切が閉まる描写がなく、すでに通過中の絵になっているところが、よく考えたら新鮮です。
その次のページ、北総7000形が通過しようとするのをサイレンを鳴らしたパトカーが焦って待つ、という場面でようやく「かわんかわん」という音とともに踏切が閉まったという描写が出てきます。
その後も空港線を行き交う京急および乗り入れの各社のいろいろな電車が通過するとともに、近くの工事現場の音、踏切を渡るトレーラーの音、天気が曇って雷鳴とともに降り出した雨、渋滞の様子、自転車の音、日が暮れて光るネオンの音まで、色々な音が本文で描写されています。
踏切の擬音も毎回音が変わって3回ほど描写されています。
かつての名物踏切を、カラフルな各社の車両や自動車が行き交うのを目で楽しみ、本文を読みながら音を想像して楽しむ、そんな絵本です。
ぜひ読んでみてください。
では今日はこの辺で。
ありがとうございました。
〜この絵本に登場する車両〜
京成電鉄
3500形(更新車)
3700形
京急電鉄
2000形
1000形(初代)
1000形(2代目)
北総鉄道
7000形
7050形(元京成3150形)
7300形(京成3700形と同形)
9000形(元住宅・都市整備公団車)
9100形(元住宅・都市整備公団車)
都営地下鉄浅草線
5300形