どうする!赤ちゃんの飲み薬

 「一難去ってまた一難」というのは、子育ての大変さを表す諺なのではないだろうか。英語にも
[If the Bermudas let you pass, you must beware of Hatteras.]
(仮にバミューダ諸島を通過できたとしても、次にはハテラス岬に用心しなければならない。)
という同じ意味合いで使われる諺があるそうだ。
 今回の一難はひなちゃんに出された飲み薬だ。バミューダ海域やハテラス岬付近の航行と、乳児の服薬を一緒にされては困ると屈強な船乗りに言われそうだが、私にとってはまあまあな難所であった。
 ある朝、ひなちゃんが軽い咳をしており、37.4度の熱が出ていた。そこで急きょ近くの小児科で診察してもらった。
結果風邪ということで、咳止めが処方された。さらにその日の夕方、熱が38.1度まで上がったため、夕方も開いていた別の小児科にかかった。
そこで行ったインフルエンザやコロナの検査でも陰性の結果が出て、やはり風邪と診断された。
そのクリニックで今度は整腸剤を処方された。これらの薬を1日3回飲ませることが突然降りかかった困難だ。
以前シロップの薬を処方された時、非常に困ってしまった。シロップの薬をスポイトで1目盛り約1グラムボトルから吸い取り、子供の口に入れ飲ませることになっていた。
ところが、私にはスポイトの目盛りを見ながら適量薬を吸い取ることなど不可能であった。音声秤を使っても、1グラムという微々たる量を測ることは難しい。
幸いこのシロップを出された日は母が来ることになっており目を借りられ事なきを得た。しかし今回は私一人で対処しなければならなかった。
そこでこの薬たちを粉薬で処方してもらった。粉であればミルクに溶かし飲ませることができる。また、少量の水で粉薬を湿らせ、団子状にし赤ちゃんの口の中にくっつけ飲ませるという方法もある。
後者の必殺「薬団子作戦」は以前私と同じ視覚障害のある先輩ママさんに薬の飲ませ方として教えてもらった方法だ。先人の知恵は本当に素晴らしい。これなら私もできると確信した。
病院の薬剤師さんにも相談してみると、前者のミルク作戦よりも後者の薬団子作戦を勧められた。なぜならミルク作戦をし続けると、赤ちゃんが薬入りの美味しくないミルクを何度も飲まされることで、ミルク嫌いになる場合があるからだそうだ。
私は満を持して薬団子作戦を決行した。科学実験のように薬を入れる醤油皿、水を数的垂らすためのスポイト、粉薬の入った薬を用意した。
1回目、粉薬を皿に入れスポイトで水を数的垂らすつもりで、うっかり入れすぎてしまった。粉を練ろうと混ぜれば混ぜるほど液体化し、粉薬は口の中にくっつけられる代物ではなくなった。派手に失敗をしてしまったのだ。仕方なく
「すまんねー」
とひなちゃんに謝りながら哺乳瓶に薬とミルクの混合物を入れ飲んでもらった。ひなちゃんはしぶしぶながらも全部飲んでくれた。きっと
「あれ?今日のミルクなんか美味しくないなあ!ママが不要な味変でもしたのか?」
と思ったことだろう。
 2回目も、スポイトを押しすぎて水が増え混ぜ過ぎなかったところは塊になったが、皿の底には薬の溶けた液体もできた。
皿の液体はやはりミルクに混ぜて飲んでもらった。少しの薬団子を口に入れると、ひなちゃんは美味しくなさそうに口をチューチューいわせながらもどうにかなめとってくれた。
 失敗続きではあったが何度か会を重ねるごとに薬団子を作れるようになった。その中でうまく薬団子を作るための三つのコツがあることに気付いた。
一つ目は水の量をほんの少しにすることだ。粉薬の量にも寄るが、少なくとも4ヶ月児が飲む咳止めと整腸剤には1滴から2滴の水で十分だ。
粉薬はいとも簡単に水と融合し、固まらなくなってしまう。
 二つ目は混ぜ過ぎないことだ。練って塊にしようとかき混ぜればかき混ぜるほど粉たちはあっという間に溶けてしまう。
 三つ目はできる限り粉を皿の端に寄せてから水を入れることだ。皿にまんべんなく粉が広がった状態では、団子を作ろうと水を入れ粉をかき集めようとするとその刺激で粉は水と融合し、薬の混じった液体が皿全体に薄く広がってしまう。
 粉薬は極めて繊細だ。今後も粉薬を処方されたら、「水を入れすぎるべからず」、「混ぜすぎるべからず」、「皿に広げすぎるべからず」を肝に銘じ、薬団子を作りたい。

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