スクールに突入して

 どうにかスクールに辿り着き、カマキリさんとの3時間に及ぶ濃密な面談の後、私は英会話スクールへの入会手続きを終えた。
 「hello」と一言言いに行くぞという一見低そうでも、私にとっては高かった目標は達成されつつある。
 ドキドキしながら英会話スクールのドアを開くと、コーヒーや紅茶の混ざりあった柔らかな香にふわりと包まれた。
 同時に、各テーブルから必死で英語を話す人々の声が響いた。カフェほどラフでは無いが、学校ほど固くも無い。
 ティータイムの柔らかな雰囲気と、英語を全力で使おうとする熱気の入り混じったこの空間をとても心地よく感じた。
 カマキリさんと一緒に入室すると受け付けで「こんにちは」と女性スタッフから明るく声をかけられた。
 盲人を初めて見た時の戸惑いを含む、あの特有の雰囲気は全く伝わってこない。やはり、事前に自分のことを知らせるというのは大きい。きっと私の情報は共有されていたのだろう。
 それから1つの丸テーブルに案内された。
席に着くなり他のスタッフがやってきて、飲みたい物を聞いてくれた。何があるか分からなかったので、メニューを尋ねると、アイスからホットまで様々な飲み物の名前を読み上げてくれた。私は何も考えずにアイスティーを頼んだ。
 飲み物が運ばれてくるのと同時に、カマキリさんがテーブルの向かいに座った。
 カマキリさんとの間には感染症防止対策のためのアクリル板があった。この板のせいで、声が聞こえにくいため、自然と姿勢は前のめりに声も大きくなる。
 この「新しい生活様式?」とやらにも慣れつつある。しかし、ソーシャルディスタンスとか接触を避けるとか、何でも触って情報を得ている私には正直不便な世界になってしまったと思う。
 紙コップに入ったアイスティーを飲み、一息ついたところで英会話スクールのガイダンスが始まった。
 説明は私とカマキリさんとのマンツーマンで行なわれた。資料はもちろん普通の文字のものしか無い。そこで片っ端からカマキリさんが読み上げてくれた。ガイダンスだけで3時間もかかったのはそのためだ。
 話の中で重要なことはブレいるセンスを使いメモを取った。グループレッスン・個人レッスン・オンラインレッスン、いろんな形態の授業があること、各クラスにかかるポイント数に違いがあること。様々な話を聞いた。
 一通り説明を受けた後、私は受講に当たりお願いしたいことを幾つか言ってみた。
 ワードやテキストデータであれば音声ソフト搭載のパソコンで読めるため、教科書はデータで欲しいこと。講師からのフィードバックも普通のプリントではなく、データとしてメールで送って欲しいこと。
 一つ一つのお願いをする度に、カマキリさんはカタカタとメモを取りながら「やってみます。」、「本部と掛け合ってみます。」と肯定的な返事をくれた。
 この真しな対応を受け、時間はかかるかもしれないけれど、様々な支援をしてもらえそうだと感じ入会した。
 何よりも周りで必死に英語を使う人や時折沸き起こる笑い声に惹かれ、私もあんな風になりたい、この空間で英語を楽しみたいと思った。これが入会の最も大きな決めてかもしれない。
 そして、次の週の外国人講師とのレッスン予約を入れ、帰路に就いた。
 ついに「hello」と言いに行ける日が決まったのだ。こうして、描いた空想が現実の物として形作られていっていることに、この上もなく喜びを感じた。

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