ホワイトアウト

曲からインスパイアーした文章シリーズ~その9~

「ホワイトアウト」

もう君と出会う前には戻れない。昨日まで作り上げてきた思い出が、眩しく見えていたとしても。

とある雪の降る日に君と出会って、そこから何年一緒に過ごした事だろうか。君から別れを告げられたその日、空は雪雲で覆われているにもかかわらず、白い使者は降り立つ事無く溶けて行った。


それまでの僕らは “ずっと離れない” と誓った筈だった。そして今、彼女は新たな人生へと歩き出す。この先、僕が知る事のない未来へ向かって。

ここからは君のいない冬を過ごす。明日からはただひたすらに、空気が漂うところで、身も心も凍える日々になる事を考えたら、そら恐ろしさを感じた。今まで君と過ごした日々を思い出してみる度に、その思い出の全てが白く塗りつぶされていった。まるで、吹雪で行く先の見えなくなるかの如く。

君と別れた日。僕のもとを離れる瞬間に一度振り返った姿が、今でも忘れられない。そんなことを思い浮かべながら歩いている僕の側を、たくさんの人が足早に通り過ぎて行く。

いつしか、ふと足を止めて行き交う人並みを、なんとはなく眺めていた。焦点の合わない目で見続けていたその景色も、突如として白く塗り潰されていった。

僕と彼女が小雪の散らつく中で踊った事もあった。笑い合ったあの日も、手を繋いだ時の指の感触や、悲しさのあまりに流した涙の色さえ、今も鮮明に覚えている。

別れる前の君の姿が、今も眩しく見えている。

だがその姿も、やがて白い闇の中へと消え去っていく。

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