Ice Cream

“曲からインスパイアーした文章シリーズ ~その4~”

「Ice Cream」

君は容姿や性格、立ち居振る舞いに至って完璧である。そのあまりの非の打ちどころの無さに感心する程だ。だがそれ故に僕には、それが非常に腹立たしく感じるのだ。正直なところ許せないのだ。

彼らの周りには薔薇の花が咲き誇り、その香りが立ちこめていた。

青年は目の前の女性に向けてこう言い放った。

「君はあまりにも完璧過ぎる、だけど僕にはそれが面白くないんだよなぁ…」
青年は不敵な笑みを浮かべながら彼女の顔を見た。
彼女の才能と容貌、そして人格にまでも青年は嫉妬していたのだ。

ただならぬ様子の青年を目の当たりにした女性は、恐怖に震えつつ言った。
「あなた、一体何を考えているの?」

問われた青年は表情を崩さず、勝ち誇った様な態度で「べつに…ただ君がこの世界にいる事自体が
“僕には許しがたい” そう思っているだけさ」と答えていた。

女性は「そ…そんな…」と愕然とした様子で答えた。
それまで一度たりとも不穏な素振りなど見たためしはなかったのに、“何故今になって” と戸惑いを隠せなかった、目の前の青年から突然告げられた言葉にただ衝撃を受けるばかりだ。

女性は目の前の青年に向けて「あなたはとんでもない人でなしだわ」と怒りを顕にした。 彼女にとってその言動は、“ありもしない罪をでっち上げられ罰を下された” 様な理不尽さだった。

時間を追う毎に込み上げてくる怒りの感情を以て、彼女は青年に向かい「最低ね…」と言葉を継いだ。

だが青年は自ら口にした言葉に “偽りはない” と言いたげな様子で女性に向けて微笑を浮かべた。それは冷たくあしらわれ突き放される度に、笑みが増していく。

二人の関係は大きく変わっていった。それまでなんとか取れていた均衡は、このやり取りをきっかけに完全に崩れ去り、もはや原型を留めていない。まるでアイスクリームが暑さで溶け出すかの様に。”もうあの頃には戻れない” のだと二人は理解した。

“世の中そんなに甘くない” なんて、僕等は頭で分かっていたつもりでいた。だが心の奥では ”理解してたまるか!” と抵抗していた事に、今になってようやく気付いたのだ。

いつしか二人は蜂蜜の色をした空をしばらく眺めていた。異様な空の色を見た瞬間、身動きが出来なかったのだから “苦しい…” と感じたのも当然だ、その時は息をすることさえも忘れていた。

そして今の青年は彼女に対して、 “憎しみ” と同等の “愛しささえ感じる” ようにさえなっていた。自分の中に突如として姿を表した、二つの相反する感情に戸惑いを覚えた。

自分の本音をまだ自覚していない青年は「これは一体どういう事だ?」と呟いていた。こんな中途半端な関係で自らの恋心を伝えず、ズルズルと続けようとしたその成れの果て、ずっと築き上げてきた物を壊そうとしているのだ。

彼女に対する嫉妬心を晒した後に、自らの血液が冷たくなる感覚に囚われた。もはや自分の心さえも凍て付いていた。 青年はふと我に返り “本当にそれでいいのか?” と自らに問を課していた。

取り返しの付かない事をしたと言う罪悪感が、青年に容赦なく襲い掛かって来た。ふと彼女の姿を見た瞬間、自分と同じ現象が起こっていたのだ。足先は既に凍り付いている。

僕よりも更に体が凍えた、彼女の方が直ぐに息絶えるのは明白だった。ただその身が凍り付くのを待つばかりだ、それでも何かを言おうとしている。

目線はずっと青年の方に向いたままで伝えた。

「ずっと、あなたが好きだった…」と凍死の恐怖が入り交じったまま、精一杯口元で笑みを作った。

青年は「ああ、僕もだ…」と本心を伝えた。「さっきはすまない…酷い事を言ってしまった…」と自らの未熟さを詫びつつ想いを伝えた。

だが程なくして二人は氷に閉じ込められた。



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