タイムカード
週に2、3日事務所で働いているのだけれど、
そこにある日突然、タイムカードの機械が導入された。
アマゾンで買った、と上司がいった。
たぶん1万円ぐらいで買える、目覚ましのオバケみたいなやつだった。
機械をぐるっと見回して撫でまわしてみたけれど、時計の側面はのっぺらぼうで、それをいじって出勤退勤時刻を粉飾する余地はなかった。
5人しかいないほんとうに小さな職場だから、しかも大半が時給ではなく嘱託の日当制なので、これまではけっこう、かなり、裁量にまかされていた。
だからちょっと早く来たり、ちょっと早く帰ったり、ちょっと遅く来たり、ちょっと遅く帰ったり、そういうのはみんな信頼によって成り立っていた。
ちなみに私は前職で、500人以上いる会社の、人事部の就業システムと産業医面談と労災の担当だったから、
サービス残業がどのぐらいあるのか、ひとはどのように鬱になっていくのか、そしてどうやって辞めていくのか、
というのをいっぱいみてきた。ときに自殺とか、死亡とか、あった。
システムのこととか、就業の方法とか、フレックスの勤務とか、その地方その地域ならではの働き方の事情とか、全国の支社のいろんな人から私指名で電話をもらったけれど、ヒラ社員の私には、なんにもできなくて、いろんな悩みや事情は会社として処理するしかなくて、だからそれが苦しくて、向いてないな、と思って、辞めた。
その小さな目覚まし時計みたいな打刻の機械が、そういう日日を思い出させてしまった。
その小さな機械で、仕事がはやく終わっても帰れないので、日当の嘱託の人たちはいつも無駄に時間がくるまで待つようになっていた。
あああ、やっぱり、向いてないな。
おんなじ曜日のおんなじ時間に身だしなみを整えて出勤することが、どうも私には、できない。
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