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2010年代:ミールロシア語研究所の記録

筆者:

横浜生まれ。2010年4月からミールロシア語研究所・東多喜子先生の入門科へ。3歳のころからTBSテレビ「世界ふしぎ発見」を見て育つ。大学時代に米原万里さんの随筆に出合い、ロシア語を通じた世界の捉え方に衝撃を受ける。出版社に就職し、世界への憧れを持ったまま悶々としていたある日、黒田龍之助先生の講演会で「代々木の語学学校 M」の存在を知る。

会社でクタクタなった後に代々木に行くのはつらい。けれど多喜子所長はいつも輝くばかりに美しい。2013年春に閉校したミールロシア語研究所との日常、多喜子先生とのやりとりのいくつかを書いてみたいと思います。

※文中、「所長」は多喜子先生のことを指します。

2010/3 はじまり

日曜日の12時。ご昼食かしら、と一瞬思うが電話をしてみる。ひがしさんですか、と訊いたら、アズマです、とお答えになった。入学金として幾ら、入門科として半期で幾ら、テキストは白水社の「標準ロシア語入門」を使います。とりあえず来週の見学にいらしてください、とばばっと仰る。

そして見学、41課、時間の言い方。

私のロシア語歴は、NHKラジオロシア語の5月号まで。読まされる。読めない。

帰り際に発音をほめていただいた。何語も続いたことのない私がこのスパルタンな学校に通えるのだろうかと悩む。先生の指には大ぶりの指輪、とろけるような白い貝。ショートカットの御髪に大きなイヤリングが似合っていらっしゃる。髪も肌も美しい先生。こんな大人になりたい。

2010/4 開校日

昼間、仕事で代々木に寄ったのでMの3階に上がってみる。真っ暗で誰もいない。授業は夕方6時20分から。営業先から会社に戻る途中、悩みに悩んで夕方4時に、多喜子先生のお宅に電話をしてみる。

「やはり今期お世話になりたい」

「ああ、きてくださるの、発音からやります、お待ちしております。」

電話は一分で終わった。

2010/6 クラスメイト

クラスは6時20分から。普通の会社勤めだったら来られるかこられないかぎりぎりの時間帯なのに、なぜか大人の男性が多い。なぜか皆さん体格がいい。そしてなぜかジャージ姿とか、初夏だからかハーフパンツ姿の人までいる。正直怪しい。よくよく聞いてみると、自衛隊や、省庁の方も多いとのことで納得。たまに絶対自分の仕事内容を言わない(職務上言えない?)方もいる。入門科のはずなのに、なぜか皆ものすごくできる。なぜ?

大先輩のTさん(現在モスクワ赴任中)が、自作の動詞の活用表を下さった。うれしい。飲みに行きましょう、と香取先生や私を誘ってくださって、いろいろとお仕事の話をしてくださる。

2010/7 男性、中性、女性。

ロシア語には性がある。私は女性。だから自分の話をしていて動詞の過去形の性を間違えると、「あなた女の子!」といわれる。

2010/9 仕事後のM

仕事の担当エリアは神奈川県で、直帰にして厚木や相模原から代々木に舞い戻る。7時半。予習も全然できていない。このままじゃ単語のテストなんて全然かけない。でも行かなきゃ来週もっとわかんなくなる。最後の10分、顔を出したら、先生は「いらしてくださって本当にうれしい、とにかく休まないでいらしてください」と仰った。

2011/3 

金曜日の午後、大きな地震があった。翌週そのまま出勤する。多喜子先生からお電話をいただく。職場のデスクで携帯にでる。

「今日は授業はなしとします。来週はやるつもりでおりますが、何かあったら連絡をいたします」たしかこんなことを仰っていた気がする。


2011/8 ウズベキスタン

ウズベキスタンに一人で行ってみた。ロシア語であいさつをすると、いろんな人が声をかけてくれた。タシケントからブハラまでの夜行列車、ものすごく熱い。多喜子所長と香取先生がいらっしゃらなければ、絶対ここまで来られなかった。

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2011/9/13 職場の飲み会

職場の先輩の送別会にて。ウズベキスタンに一人で行った、と話したら、「ウズベキスタンってどこ?てゆうか会社員なのにロシア語勉強して一体何になりたいの?」と、言われる。以降職場では、ロシア語勉強していることは、あまり大声で言わないことにする。

2011/9/26 味方

ふたたび職場の飲み会。隣の席に、長崎生まれの同期が座っている。この人はいつもものごとをまっすぐ捉えてくれるひと。こっそり、実はロシア語を勉強している、実はウズベキスタンに一人で行ってみた、と言ったら、ほんとうに期待を裏切らず、あたたかい言葉で肯定してくれて、お礼に司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』が日露戦争のころのこと書いている、と紹介してくれた。うれしい。

2011/10 Наука

神保町のНаукаに行った。ハヴローニナのテキストが早く見てみたいと思って尋ねるも、品切れ。入荷したら電話を下さった。「10冊入荷したのですが、10冊ともほしいと仰るお客様がおりまして…。」「それ、Mの東先生ですか?わたしそこの生徒です!」そういうわけで、多喜子先生から後日、いただく。

2011/10/15 土 ゆっくりつづける

ふたたび43課。だましだましだけどひととおり終わりまできてうれしい。半年前はさっぱり意味がわからなかった関係代名詞の書き換えがちょっとわかって嬉しい。対格と造格の関係がちょっとわかってうれしい。

2011/10/19 水 発音

М。いまもむかしも、多喜子先生は発音に容赦がない。夜9時半、くたくたになったころ、多喜子先生が誰よりも元気に発音を直してくださる。声に出すことがこんなに大変とは思わなかった。

帰り際、「営業つらいです、仕事辞めたいです」と所長に愚痴ると、「仕事があるだけ幸せなのよ!ちゃんとロシア語が出来るようになったら仕事辞めてもいいわよ」、とはっぱをかけられる。

2011/11/9(水)  Дождь идёт уже давно.

多喜子先生に明日の天気を聞かれた。授業にいくまえ、月にカサがかかっていたから、

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