勇者様、ダンジョン攻略の必殺技使用は法律にて禁止されております1

不定期に更新します。まともな資料に基づく小説ではありません。途中で立ち消えになるかもしれません。それでもよければ楽しんで頂きたいです(甘え)

魔法暦1920年。
第13回大陸会議決議案。

「勇者一味によるダンジョン攻略は悪魔族に対する不法な侵略行為として認定されました。休戦協定に従い、平和的手段による領土問題解決の模索を要求します!」
大陸会議議長 エルフ族首長パラディン印

「どういうことよ!?」
勇者サリーは激怒した。
「ダンジョン攻略よ! 悪魔をやっつけて何が悪いってんのよ!?」
勇者の居場所はもはや魔族うごめく洞窟ではない。ここはロンバル王国宮廷会議。サリーは憤っていた。彼女は7歳の時から厳しい修行を経てダンジョン攻略を担う勇者になったのだ。16歳の誕生日に『精霊の泉』から『精霊の加護』を譲り受けたばかりだというのに!
「確かにロンバル王国にて『ダンジョン攻略』と呼称される戦闘行為が継続的に発生していたことは事実です。いかなる歴史的背景があるのか、大陸会議はいまだによく把握できておりません。しかしながら、ダンジョンが悪魔族の居住地である以上、ロンバル王国の行為は侵略と認定せざるを得ません…」
とのたまうのはエルフ族出身の監査官モルフォ。
「現在でも勇者と悪魔族間の小規模な戦闘が断続的に引き起こされていますが、段階的に休戦状態に移行すべきです。大陸会議の名において、勇者たちの武装解除を要求します!」
「はああー!?」

―――ダンジョン攻略

それは英雄の証であるはずだった。モンスターを倒し、魔法石をゲットし、最深部の宝箱をあける。それこそが勇者の名誉なのだと教えられてきたし、そう信じてもいた。

ダンジョン攻略は、不正な侵略行為。

この大陸会議の認定にサリーは納得がいかなかった。

「魔族は悪いやつらよ! 村を襲撃しロンバル王国の宝物を奪う。王国の側にダンジョンがある限り、私たちは枕を高くして眠れない!」
「んなこと言われましても、大陸会議の決定ですしねえ―」
ため息をつくのは行商人のロールズ。今までサリーと旅をともにしてきた青年である。勇者ではないが、薬草や魔道具の鑑定ができるため、パーティメンバーに加えられていた。
「でもでも、平和が来るんなら良かったんじゃないですかあ?」
遠慮がちに声をあげるのはヒーラーの少女ハンナ。
気弱な性格だが気配り上手で、パーティーメンバーから可愛がられている。
「よくないわよ! 私たちの戦果はどうなるの。ロンバル王国のために戦ってきたのに! 聖剣まであと一歩だったのに!」
サリー率いるパーティーメンバーがいるのはダンジョン地下三階休戦エリア。ダンジョン地下二階までの実効支配は認められたが、休戦ラインがどこになるかは未定である。

「あのーすみません。ゴブリンのガダルと申します。ダンジョン居留民はロンバル王国か悪魔族かの保護申請を受けられると聞きまして…」
「申請書はお持ちですか? …国籍は? …ゴブリン。ゴブリン族…ね。ゴブリン族は現在国家として認定されておりませんな。無国籍でもダンジョン内に定住していたことが証明できれば申請も通るんですが」
手慣れた様子でゴブリンの保護申請に対応するロールズ。
「ダンジョン内に定住していた証拠……ございますございます。ボロ屋ですが、〈ゴブリンの洞窟〉に住んでおりました。当ダンジョン地下四階…」
「登記簿はお持ちですか?」
「トーキボ?」
「ええ、ダンジョンの〈ゴブリンの洞窟〉の不動産所有権を示す…」
「いやそんなものは。父の代に移住致しまして。魔王様のお許しは頂いておりますが」
「魔王の許しですって!? そんなもんあっても無効よ、無効!」
「サリー、あんたは黙っててくださいよ。ええと、戦闘に参加した経験は?」
「ございません。あっしはしがない刀鍛冶でして」
「魔王の許しの書類は?」
「〈主従の証〉がございます」
そう言ってゴブリンは右腕に刻まれた入れ墨を見せた。
「ふむ。確かこの入れ墨があれば魔王領の永住が認められるんだったな」
「魔王領ですって! もともとロンバル王国の土地よッ」
「問題は〈主従の証〉が軍事的なものであるかどうかだが…ガダルさん、本当に戦闘に参加した経験はありませんね?」
「ええ、誓って!」
「手を見せてください」
ロールズはガダルの手をまじまじと見つめた。
「確かに魔杖を使った形跡はないな。剣を握ったわけでもなさそうだし。ガダルさん、おたくの手にはマメが多いようですが」
「刀鍛冶の誇りでさあ」
「その刀、魔王軍またはロンバル王国に納品しましたか?」
「ええと…色んな方がお買い求め下さるんで、魔王軍の方もいたかもしれません、ヘヘヘ」
「刀を魔王軍に売ったのね! 私たちの敵じゃない!」
「落ち着いて落ち着いて。経済活動自体は違法ではない…」
ロールズは手元の書類にいくつかのサインをした。
「よいでしょう、ゴブリンのガダルさん。紛争地帯の居住者である事実を認め、居留民保護の申請を許可します。この書類を持ってロンバル王国軍駐屯地に行ってください。特設窓口に行けば補助金とロンバル王国国籍が与えられるはずです」
ゴブリンは礼を言ってその場を後にした。
サリーは思わずため息をつく。
サリーたちの前には様々なダンジョン居留民達が押し寄せている。オーク、フェアリー、トロール、ヴァンパイア。
彼らをレベル上げのためにぶちのめす…わけにはいかない。
「居留民保護の申請を!」「補助金が降りんのじゃがどうなっとる?」「息子が熱を出したんですが、大陸会議の医療サービスが受けられると聞いて…」「クソ勇者が広域魔法でぶち壊した家の補償を…」「あれを壊したのは魔族じゃなかったっけ?」「どっちでもいい、申請できるもんは申請しとけッ」

サリーは再びため息をついた。
「これが続くっての? 何のために地下三階まで来たってのよ…」

ダンジョン攻略。
いいや、ダンジョン侵略。
剣と魔法の時代は終わりを告げた。
勇者の戦場はもはやダンジョンではなく法廷である。
勇者の武器は剣ではなく言葉である。

新たな冒険の時代(法廷闘争)が幕を開けようとしていた!

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