寄り道~宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」感想(ネタバレ)

酷暑が続くなか、コロナも身近で増えて人手不足が加速し、仕事が激務のなか、家でも介護が待っているのだけれど

少しだけ気分転換をしたくて、ずっと観たかった宮崎駿さんの「君たちはどう生きるか」を鑑賞。

映画館は子どもの時に福井でいとこたちとドラえもんの映画をみたこと、そこから勉強の日々だったので行ってなくて、観てなくて、次にみた映画は「タイタニック」。そこからは嵐くんの出る映画は必ずみるようにはしてきたが、とにかく介護で忙しく、父母がデイケアに行っているつかの間の、その合間に息抜きとして、テレビもない私には、唯一のエンタメが映画で、主に日本映画をみてきてた。

宮崎駿さんの作品は全部は観れてないが、今回もその圧倒的な宮崎ワールドに引き込まれた。
エンタメというのは、人間がこの地球上に描く美でもある。地球の美といえば、思い浮かぶのが「オーロラ」。あれは自然、宇宙でしか作れない産物。それを人間が、そのレベルのものを作れるって思う瞬間をくれる人が私には一人だけいる。
辻井伸行さんの音色だ。あの音律は、自然でしかつくれない壮大な美を、人間は創り出すことが可能なのだと感動しかない。透き通っていく心。歌詞がないゆえに、ただ音律で包んでくれる時間が私の宝物だ。

宮崎駿さんの描く作品にも似たような感覚はあって、おおよそ、凡人では想像できないような世界観をいつも魅せてくれる。次々と広がる世界が、異次元の想像力の結晶。人物の動き方も、独特。スッとしてるわけではない、なにか、人間らしさ、ぬくもりのある動き、音。ここまですべてが発達しても、大事な「人間らしさ」のぬくもりがそこにはある。丁寧で、素朴で、ひたむきに生きるひとたち、生き物。あたたかいなぁ、、。

さて、今回は青サギがでてくる。鳥好きの私としては、どんな役割をするのかも楽しみで、まさかあんな鳥のおもしろさが仕掛けてあるとは!
でも、あの鳥の役割はなんだろう、主人公にとってあの鳥は?

観終わって、あの鳥は、主人公を「試す」ために現れた、心の通った生き物に思えた。

「獅子は我が子を千尋の谷底へ突き落す」

その言葉が浮かんだ。あの映画はまさしくそれだ。その谷底へ道案内し、一緒に進むのがあのサギ。
谷底的空間に落とされた主人公は、あらゆる感情を味わうことになる。しかし、生活をあのまましていたら、押し殺されている感情がいつか爆発するような危険を秘めていた。

主人公が味わった、幾つもの感情の種類を思ったとき、中国の古典『呂氏春秋』の、人間を評価するさいの心得として「八観六験」について書かれていた内容が思いだされた。
その「六験」の試す内容について書いてみたい。それに類する体験を主人公はしているからだ。
「凡そ人を論ずるには(中略)之を喜ばせて以ってその守を験し、之を楽しませて以ってその癖を験し、之を怒らせて以って其の節を験し、之懼れしめて以って其の特を験し、之を哀しませて以って其の人を験し、之を苦しましめて其の志を験す」

詳細
喜ばせて守を験す~守とは守るの義、信念。有頂天になって信念を忘れていないかどうか。
楽しませて癖を験す~癖とはクセ。楽しみにのみ、のめりこんでしまっては落第。
怒らせて節を験し~節とは度合。怒りのあまり我を忘れるようでは、ひとかどの人物であるとはいえない。
懼れしめて特を験し~特は特立、独立。自らの所信を貫いて一身を持すること。特の人とは信念の人である。
哀しませて人を験す~人とは忍、つまり忍耐をさす。
苦しませて志を験す~これこそが、獅子は我が子を千尋の谷底に突き落す。

この映画で、主人公を異世界の凄まじいなかに放り込んだのは、
彼を、喜び、楽しみ、怒り、懼れ、哀しみ、苦しみと、およそ人生のあらゆる試練の場に立たせてみて、その世界に入れて、それに耐えられるかどうか
、その人間、人物をみて、そして

鍛えようとしていたのだと思う。
そんな「鍛え」のような大風や苦しみの世界のなかで、彼は着実に成長していく。鍛えなどという気風はもはや時代遅れととられそうでもあるが、
敢えてその烈風に立ち向かわせたのは、母親の愛情だったのではないだろうか。大きくは、祖先たちの愛情。

母親を亡くし、次々を変化していく事態に苦悶し、苛立ちながらもどうすることもできない少年に、大きな試練を、鍛えを与えたことで、大事なことに気付かせた。
「人はみな、苦悩しながらも前に向かって生きようとしている」ということ、そして他人のそれを阻害するのではなく、認め、支えていってほしいという母親の思いである。そして彼自身にも、前を見てほしかった。。

人生はあっという間だ。彼が人生最終章で受け取るバランスシートは、どんな結末になるのか、そこを分ける、大きな分岐点に、彼はいた。その瞬間に、現れた青サギは、
彼に問うた。これからどうするのか?と。

守り続けられていた世界の良心のバランスを保つ石は崩れさった世界が、今見えている宮崎駿さんの、今の日本であり、世界。
それまでも、戦前までも、決して良い世界だったとはいえないが、もっと更にこれから疲弊し、衰退していくであろう世界観のなかで、

「君たちはどう生きるか」

戦後、日本が急激に変化していったのを、鋭い感性で直視してきた宮崎駿さんだからこそ、これからの君たちは、この均衡のとれていないカオスともいえる世界で、どうか、その試練を越えられる人間として生きていってほしい。そんな願いを感じたのだ。
憂いを含みながらも、決して絶望していない。それが宮崎駿さんのいつも描いてくれる優しい世界。

どう生きるかは、各人に結論は委ねられている。
ただ、試練が絶えまない人生で、主人公とともに、自分はどう生きて、何を掴むのかを経験させてくれる映画なのだ。

帰途につき、読みたくなった本があり、書庫にて、『人はなんで生きるか』トルストイ民話・・岩波文庫1932発刊
を大事に開く。大好きな本だ。

p44からのミハイルの「人間のなかにあるもののなんであるかを知る」という命題への気付きを語った、3点は、文豪トルストイの悟りともいえるような、深淵な答えであり、「人のなかに、尊い心がある」を語る文章は、高尚で、やはり優しい。
でも私がいつも一番泣くページがある。
p24
赤貧を極めている一家を抱えながらも、路傍にうずくまっていた謎の男、ミハエルを助けた靴職人の夫に、妻は寝る前にこう語る。

「わしらはなんでもひとにくれてやるのに、どうしてだれもわしらにゃ、くれないんだろうね?」
「そんなこたどうだっていいよ」
そしてくるりと寝返りを打って、寝てしまった。

トルストイが推敲に推敲を重ね、長年かかって書いた短編なので、どの言葉も深いけれど、この言葉の深さ。。

「そんなことはどうだっていいよ」

私は何故だかわからないけれど、ここでいつも涙腺が決壊してしまう。
深い、深いな。。
私は日本文学が嫌いなわけではないけれど、どうしてもその文体や文章の表現に感動してしまって、肝心の中身まで味わえてないことが多く、その点、外国文学はいかにも訳された文章ではあっても、その発想や深さが、広い大地が生んだものを感じて好きなのである。

宮崎駿さんの今回の作品の題名、問いかけは、各々が感じていくものだ。だからなんのキャッチコピーもなく、先入観なく、ただただ、自分のまっさらな心だけを広げて受け止めてほしかったのだと思う。これだけ情報のあふれた世界にあって、大事な「感じる心」を研ぎ澄ますために。
それもまた、宮崎さんからのプレゼントな時間だった。

主人公はなにを抱きしめていきていくのだろうか。ただこれだけは言える。
母親の愛情、誰かの愛情が、人を生かすのだろう。

見返りを求めない、「そんなことはどうだっていいよ」と。主人公は、そんな優しさを経験したから、きっとこれからも大丈夫。

そんな優しさを感じて生き返った!また明日も、宮崎さんも愛する子どもたちと共に。自分の道をまっすぐに。

(余談)
さきほどの中国古典「八観六験」は図書館で家康の勉強をしているなかで、書物にあり、書き留めておいたもので、家康にこれを問うたら、やはり、彼もまた、さまざまな体験をして、生きた人間だったのだと、改めて大河ドラマでも観て感じる日々である。

2022年年末に99.9映画のライブビューイングに行ってなければ、確実に今、私はこんなツイートもしていないし、勉強もしていないかな。。そもそもテレビが何十年も、なかった。あの時、本当に松本潤くんの懸命さに感動したから、ここまで勉強もして、楽しめてて。

私がテレビを見ないできた理由は小学生の時、近所に住む友達のお母さまが助産師さんで、とてもオシャレで素敵な人だった。その人が美味しい紅茶を飲ませてくれていろんな世界の話を聞かせてくれて、そしていうのだ
「テレビは時間食い虫だよ、時間は大事にしなさい」と。

なるほどと思った私は、そこからあまり観なくなり、なにか役立つ人間になりたくて勉強や陸上部の部活に必死だった。保育士は多忙極めるし、特に介護が始まってからは、父が認知症を悪化させるので、テレビを捨ててしまった。

介護生活も14年間、友達の家にいった時だけしかみてなくて、嵐が売れてたくさんのテレビに出ていたけれど、1ミリくらいしか観れてない。
松本潤くんが一生懸命取り組もうとしている大河をみるために買ったものの、やはり未だに大河ドラマ以外でみることはほとんどない。。

仕事、やることがたくさんある。子どもたちの為にあれもこれもしてあげたい。
だから正直、葛藤もある。
推し活、、
でも一生懸命がんばっている「人」を応援したい、だから、大河が終わるまでは、頑張ろう。
楽しいし、うれしい。けれど、自分が長く主軸においてきたものは変えられないということか。それこそ、どう生きるか、にもかかわる。

歌で励ましをもらってきた嵐くんたちに恩返しの時。そう思っている。
松本潤くんの熱量ある演技が本当に大好きで、毎回楽しみをもらっている。
ない時間を工面して、とにかく、応援あるのみ!

どうか推しが元気でありますように!それだけが願い!本当に大変ななか、がんばってる姿をなによりも尊敬しています!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?