町田市民は魔都東京に挑む

 東京は滅んだ。
 山手線を外周として、鉄道、地下鉄、高速道路を結んで組まれた巨大な魔法陣。通勤時間を走る満員電車の中身を血袋として生贄に捧げ、開かれたるは異界への門。そこから湧き出した軍勢の侵攻を受け、東京都は半日のうちに魔都と化した。ここ、町田市を除いては。

「いらっしゃい」

 久方ぶりの客がやってきた。今の町田市は自衛隊や国連軍、記者の類で賑わっているが、連中がわざわざ寂れた土産物屋にやってくることはない。元より東京には大した特産品がないことを、彼らは大抵初日で知る。

「人形焼を探しているんですが」

「『ひよこ』はありますよ。福岡から直送です」

「では雷おこしは?」

 符牒だ。俺は「本物の東京土産」を取り出した。魔都東京に不法侵入、収集してきた魔術的な産物の数々。一通り検めてから客を見ると、いつの間にか取り出した拳銃を俺に向けていた。

「何のつもりだ」

「選択肢は二つ。死か、我々を都内まで案内するか。選べ」

【続く】

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