ラベージブリンガー
気づいた瞬間、私の拳は眼前の男を殴りつけていた。
顔面に突然の一撃を受けて表情を歪め、鼻血を吹き出して昏倒する男を、その場の誰もが一瞬、他人事のように呆然と眺めていた。
彼らが状況を理解したのと、気を抜くなとばかりに私の両腕が震えたのは、ほぼ同時。
「テメェ!」
手近な男が銃を構えようとした瞬間、左腕が鋭く動き、その銃を叩き落とす。そのまま鋭いチョップが男の首へと突き刺さり、一人がダウン。しかしその間に別の男が拳銃をこちらに向け、乾いた発砲音が響く。
銃声を聞きつけた瞬間、全身の筋肉が硬直し、思わず顔を背けてしまう。無限にも思える一瞬の中で、腕だけが生身の体を嘲るように動き続けている。
果たして、被弾のショックが訪れることはなかった。
恐る恐る首を巡らせた先で広がっていた光景は、指先で挟むように止められた数発の拳銃弾と、それに驚愕する男の姿。
私の腕は拳銃弾を投石として投げ返し、その勢いで体を転回させる。眼前には小さな路地。
「こっちに逃げろって……!?」
背後からの罵声と銃声に震える足を必死に動かし、大量のガラクタが転がる<ラグーン>の路地裏へと飛び込む。
<シティ>のあらゆる廃棄物が流れ着くこの街で、見慣れないサイバーアームを装着した死体を見つけたのが3日前。闇技師に無理を言って、旧式アームから換装したのは昨日。見慣れない連中が「その腕を寄越せ」と脅しに来たのがつい先程。
自分は何を拾ったのか。ユーザーの意思と無関係に動作するサイバー義肢など聞いたことがない。それもここまで高度な判断力と戦闘力があるものなど。
考えを巡らせる暇もなく、路地に低音の合成音声が響いた。
「来たか。RB型のお手並み拝見だな」
路地の先、単眼の戦闘型サイボーグが佇んでいた。先程の相手とはモノが違うと一見して分かる重厚なボディ。
今すぐ逃げ出したい私の意思とは無関係に、私の腕は静かに構えた。
【続く】
Photo by Vinay Darekar on Unsplash
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