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雛鳥たちの戦争

「常に予算と人員の不足している我が国の空軍にとって、例の予算が通ったのは元々変な話だったんだ」

 国境にほど近い小さな町から、更に車で2時間と少し。農場や牧場の中に佇む小さな空軍基地。ほとんど使われていないという応接室で、インタビューは静かに始まった。

「パイロットを代替する高度なAIを搭載した無人戦闘機の研究開発……研究するだけなら結構だと思った。数年後に自分の基地に配備されるような話とは知らなかったんでね」

 がっしりした体格、鋭い眼光、異様なまでに冷静な態度。目の前の男は、今や世界から消え去ろうとしている「ファイターパイロット」の特質を確かに残す、貴重なサンプルだった。

「無人戦闘機配備の話を聞いた時……みんな驚いたし、怒っていた。厳しい選別と訓練を乗り越えてようやく手に入れたファイターパイロットの座をAIに盗られようってんだからな。模擬戦で絶対に叩き落としてやろう、最初に落とした奴にはビール1ダースだと盛り上がった」

 昔を懐かしむ言葉をかき消すようにジェット音が響き、部屋全体が少し震えた。無人戦闘機の編隊が空へと上昇していく姿を窓越しに眺め、男は満足げに頷いた。

「今では信じられないが、当時の奴らは最初のうち離陸すらできなかった。欠陥機だったんだ。……配備から半年以上が経って、ようやく滑走路から飛び上がるのを見た時には、パイロット連中も模擬戦の話なんて忘れて歓声を上げていた。親戚の子の成長を見守るような気分でね」

「……その頃、莫大な予算を注ぎ込んだにも関わらず飛行さえ満足に出来ない実態が暴露され、無人戦闘機の導入は政治問題になった。議会の追求を受け、国防大臣は辞任、計画は中断されるはずでした」

 私の確認に、男は長く息を吐くと、意を決したように口を開いた。

「そうだ。奴らは軽く試験を済ませた後は倉庫行きになるはずだった。……あの戦争が始まらなければ、そのはずだったんだ」

【続く】

タイトル画像: Photo by Yuriy Bogdanov on Unsplash

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