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金融庁長官の最新発言に見る「プリンシプル中心」変化の前ぶれ【金融当局主要会合傍聴録】22/10/28金融庁長官講演

金融庁は近年、事業者の自主性を重んじて業界全体の健全な発展を促す「プリンシプルベースアプローチ」中心の行政方針を掲げていますが、足元ではこうした当局の姿勢に変化の兆しもみられます。今回は、10月28日に都内で講演した中島淳一・金融庁長官の発言に焦点を当て、その文面から、プリンシプルとルールのバランスを模索する金融庁から金融業界に向けられたメッセージを読み解きます。

プリンシプルとルール

10月28日に中島長官は都内で講演し、政府が年末に公表を予定している「資産所得倍増プラン」の具体策の策定に向けた金融庁の取り組みについて説明しました。

ここで取り上げられたテーマの1つが、金融事業者による「顧客本位の業務運営」です。

「国民の安定的な資産形成を実現し、資産所得の倍増を図るためには、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用などを行うすべての金融事業者がそれぞれの役割を認識して、『顧客本位の業務運営』に努めることが重要と考えている」

(記者メモより)

「顧客本位の業務運営」は、それ自体はプリンシプルでもルールでもない1つの理念のようなものです。霞が関文学において好まれる定義域の曖昧な訳語の一つですが、元の英語(Fiduciary Duty)よりやや幅広く、金融事業者が自らの利益を優先することなく、顧客の立場に寄り添って商品やサービスを提供するビジネスの姿勢を意味しています。

問題は、この「顧客本位の業務運営」という理念をいかにして実現するかにあります。金融当局は「金融処分庁」と揶揄される強権的で高圧的なイメージを払拭しようと、罰則規定を振りかざして事業者を先導するルールベースアプローチからの脱却と、おおまかな規範(プリンシプル)のみを示して事業者の創意工夫を促すプリンシプルベースアプローチへの移行を前面に打ち出してきました。

画一的な法令に頼ることなく「顧客本位の業務運営」を事業者に定着させようと、17年に当局が策定した「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、「原則」)は、当局が打ち出すプリンシプルベース行政を象徴する存在といえます。

「改善が図られない」ならルール対応も

中島長官はこの「原則」の意義を改めて強調したあと、こう続けます。

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