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56.魔法の言葉

先月末の話。

いつも彼とは夜に1回電話をする。それは私がジム、彼がゴルフの練習で外に出てる時だ。

そうしようと決めてるわけじゃなく、いつのまにかそうなった。

だいたいは私がジムに出かけ、運動してる間にゴルフ練習行ってきますとLINEが入っていて、私がジムを出る時に終わったよ、と言うと彼が喫煙室から電話をかけてくる という流れだ。

私はジムで汗を流しながらも彼からの連絡を待っている。
少し遅い時もある。その時は長めにトレーニングをして彼がゴルフ練習行くのを待つ。

そんな毎日だった。

この前、20時を過ぎても彼からのLINEが来なかった。なので私は、ジムを出てコンビニに行って買い物をしていた。

ちょうどお会計の時にLINEが入った。

「娘を迎えに行ってからゴルフ練習に行ってきます」

娘さんの塾に迎えに行って、自宅に降ろして、ゴルフ練習に行くということなのだが、それだとあと15分くらいは電話をすることは出来ない。

待てないな、と思い、「終わってコンビニに寄ったし帰るね」とLINEを返した。

すると、「待ってたよね。遅くなってごめんね。」とLINEがきた。


それを読んだ瞬間、何か私の中でプツンと糸が切れた。きっと生理前だからだ。


待ってるとわかっているなら、どうして今日は遅いからと言わなかったの。

奥さんがいる前で少しも携帯いじれないなんて、そんなに奥さんがこわいの?大事なの?

それなら不倫するのやめれば?


言いたいひどい言葉が頭の中を巡った。もう一度言おう。生理前だからだ。


今既読をつけたら勢いで打ってしまいそうだったので、そのまま無視をした。


その後も、連絡遅くなってごめんね。とLINEが入ってきた。


お風呂に入りながら、ゴルフ練習行くのがわかるから待ってしまうんだな、と思い、今度からは連絡要らないよと言おうと決めた。

何時に行くかがわかるから、それに合わせてトレーニングを調整したりしてしまう。お互い、好きな時に行って好きな時に帰ってくればいいんだ。そう思った。


寝る前に既読をつけ、

「大丈夫だよ
待っててとか言われたことないし、悪くないから謝らなくて大丈夫。

勝手に行って勝手に帰ってこよう、お互い。

練習行ってくるとかも言わなくていいよ、連絡がくると思うから待ってしまうし。昼間の電話もそうだから、私もっと自由にするね。」

と送った。

彼から「自由にする…。そっか…。待たせて、怒らせてごめんね」と返事が来た。

翌朝は「昨日は悲しい思いをさせてごめんなさい」とLINEが来た。


昼間電話が来てまた謝られたけど、大丈夫だよ、と答えた。

プリン買ってきたから届けると言われ、夕方プリンをもらった。

ご機嫌取り。でも取ってもらえるだけマシよね。

そんな気持ちだった。

夜、いつものように彼から練習行ってきますとLINEがきた。

言わなくて大丈夫だよ、今まで夜電話してくれてありがとう。とLINEを送るとすぐに電話が来た。


終わりにしようとしてる?と言われ、なんでそうなる?そんなことないよ、と答えたけど彼は不服そうだった。すかさず、明日は何時にどこ?と翌日のデートの話に変えた。時間と場所を決め、電話を切った。

夜のおやすみLINEには、再度「終わりにしようと思ってませんように」と付け加えられていた。


大丈夫だからね。と言ったのに、夜中私が寝てる間に何通も「最悪のことばかり頭に浮かんで眠れない」とか泣いてる顔の絵文字が送られてきていた。


朝になりこれらを見た時、そんなに冷たくしたかな?と思ったが、たいして気に留めなかった。

午後から逢えるし。と思って支度をしていると、

俺の気持ちはずっと変わってない。大好きだ。困るくらいに大好きだ。
言いにくいことがあるならはっきり言って欲しい。
好きな人できた?俺とやっていくのに疲れた?
連絡するのが遅れた日より少し前から気持ちが変わっていってるのかなと感じていた。

はっきり言って欲しい。

と彼にしては長文のLINEがきた。


え?逢わないの今日。と思って、
ほんとに何もないよ、今日逢わないの?私逢いたいよ。

と返した。

逢います!!と力強く返事が来て、無事に時間通りに彼と逢えた。


車内ではいつもと同じようにもらったプリンが美味しかった話や、前日に行った美術館の話など私が一方的におしゃべりをし、彼はそれを楽しそうに聞いてくれた。

少し間があき、彼が「ほんとに何もないの?」と聞いてきたので「ないよ」と言った。

「ならいいんだけど」と言った彼の声に元気がないのがこの瞬間にわかった。

いつもと違うホテルに入ると、彼が子どものようにくっついてきた。強く抱きしめられ、「離れないで」「どっか行かないで」と彼は言った。

すごく不安だったと言って強く強く抱きしめてきた。

その日の彼は常に私を強く抱きしめ、私を自分のものだと確認しているようだった。

いつも余裕がありそうな大人の雰囲気の彼が縋ってくるような、そんな感じだった。

愛おしくてどうしようもないと、何度も口づけを交わした。

いつもより、一層大事にされている。そんなふうに感じた。


彼がこんなふうになってしまうなんて思ってもみなかった。

私に依存しているかのようだ。

私が離れていきそうで嫌で嫌でどうしようもなかったと、気持ちをたくさん伝えてくれた。

そして今、自分の腕の中にいる私が愛おしくて仕方がないとも。


最近私の気持ちが変わっていってると感じたのはなぜだったのかを聞いてみた。

「今まで女子高生みたいだったのが、女子大生くらいになったように感じて、こうやって俺から巣立っていくのかなと思った。嫌になっちゃったのかなとも思ったし。」と前半よくわからないけど、少し私が成長したからだったようだ。


それには思い当たる節はあった。


12月は彼が繁忙期でなかなか時間が取れない。わかっているものの、やはり寂しく感じていた。
だから12月が近づくのが嫌だった。と同時に、平気にならなくてはならない。と思っていた。

彼との連絡なども意図的に控え気味にしていた。


なので私は、「嫌なことは12月になるから寂しいと思ってた。嫌なことって言ったらそれくらいだよ。」と答えた。すると彼は「可愛いなー。ほっとかないよ。放ってなんかおかない。確かに時間とりづらいけど、時間作るし、あなたと逢うためにいつもタスクをこなしてる。それだけがモチベーションだ。」と言ってくれた。


昨日は不安で眠れなかったけど、今夜は眠れそうだと彼が笑って言った。

その笑顔がかっこよくて大好きだと思った。

今回の発端になった、夜の電話の件の不満を彼にぶちまけずにこの話を終わりにした。もはやどうでもいいと思ってしまった。

私がいなくなると思うとこんなふうになってしまい、いなくならないとわかるとこれまたこんなふうになってしまう。それで充分だと思った。


帰宅した後、彼からのLINEが来た。

今日はありがとう。すっごくすっごく嬉しかったし、愛しかった。 

そう言ってくれる彼が私も愛しかった。

その日から以前に増して更に更に愛情表現をしてくれるようになった。


何でこんなに大好きなんだろう

毎日毎日、もっともっと好きになる

可愛い声が聞けて嬉しい

などなど。他にもたくさん。


相手が好きでいてくれるのがわかると、こちらも好きを伝えたくなる。

伝えたらまた、返ってくる。返ってきたらまた、あげたい。


こうしてまた私たちはいい関係を築いていっている。


私が待つのは当たり前じゃない。
待ちたくない時だってある。
たった一瞬で気持ちが離れることがあるかもしれない。

彼がこれらに気づいてくれたような気がする。

離れることなんてないだろうといつものように余裕たっぷりではいられなくなったようだった。


12月に入り、私たちはまだ週に1度は逢えている。来週も約束はしている。

毎日大好きだと言ってくれてるのに、切なかったり寂しかったりしちゃう私は欲張りさんなのかな。とぽつりと言った。


彼が
切なくて、寂しい想いをさせてごめんね。でもそれはお互い様だよ。それが恋だ。と言った。

あなたは余裕なのかと思ってた。と言ったら、

決して余裕なんてない。逢いたくて逢いたくて切なくてまた逢いたくなる。と言ってくれた。

大好きだということはわかってね。

と言われ、大丈夫。わかってる。と答えた。


彼も私と同じ気持ちになる夜があるのだろうか。私ばかりが好きで、彼はきっちり家庭と私を分けてこっちはこっち、あっちはあっちと完璧にしていると思ってしまう。

大好きの言葉も私が喜ぶから言ってくれてるんじゃないかと思ったこともある。


負のパワーが押し寄せてきて、どうにもならないことを考えて。

今度は私が不安になってしまっている。


いけない。早く彼に逢って抱きしめてもらおう。


でも早くなんて逢えない。我慢だ。

また土日が来て、わざと返事を返さないようにしてみた。どうせ返事こないから。


友達数人とカラオケに行った。歌っていたら、彼からLINEが来た。
「今電話できる?声が聞きたい」

一旦部屋を出て車の中で「今外だから大丈夫だよ」と返事をしたらすぐ電話がかかってきた。


「声が聞きたかった」と言う彼にほっとしてしまい、私は泣き出してしまった。


土日は返事がなかなかこないから既読つかないの寂しくてわざと私も送らないようにしてること。

あなたはおうちの玄関のドアを開けたら私のことなんて忘れちゃってるんじゃないかと思って悲しいこと


うまく切り替えができなくてつらいこと

涙と言葉が溢れ、つい彼に本音をぶつけてしまった。

彼がそんなことない。しょっちゅう考えてるよ。と言ってくれたけど、ただただ泣いてしまった。


言うだけ言って泣いたら少しスッキリして、もう家に戻って、と彼に言い電話を終わらせた。

翌々日に逢った時はうまく笑顔を作れなかった。

大好きだよと言ってくれた。そこは疑ってない、私のことが大好きなのはわかってる。そう言うと何が不安に思う?と優しく聞いてくれた。

ちょうど私はその時彼にぴったりくっついて彼も私を抱き寄せていた。

だから私はこう言った。

「おうちでもこういうことしてるのかと思って…」

彼が「してないよ、まったくない。もしかして、このままの俺が家にいると思ってる?」と聞いてきた。頷くと、「全然違う。寡黙だよ。必要以上に喋らないよ。文句とかあるじゃん、それ言うと喧嘩になるからそれはそれでめんどくさいから何も言わない。」と言った。

「思うところはあるってこと?」
「あるよ、そりゃあもうある。」
「大好きとか可愛いとか言わないの?」
「言わないよ。本当に言わない。」
「私には言うのに?」
「だって大好きだし可愛いから言うよ。」


そんなやりとりをした。


今までおうちのことは何も言わない彼だった。始まった当初子どもの話は聞いたことがあったけど、最近は何も言わなくなった。

おうちの話はしないから、愚痴や不満も聞いたことがなかった。
だから余計に不満もなく家は家であの様子でenjoyしてるのだと勝手に思っていた。

でもこの日、彼がふと漏らした家庭の話を聞いて、同じなんだなと思った。どの家庭も似たようなものなんだなと。


私の前にいる彼は、私の前にしかいない。

私もそうだ。彼の前での私は、彼の前にしかいない。

少し考えればわかる話だけど何故かいつも悩んだりへこんだりしてしまう。


これが婚外恋愛だと言われたらそれまでだが。


彼には、またこういうこと絶対あるから、私絶対またいじけるから、そしたらその度に大好きだと言ってぎゅーしてちゅーして。と言った。

頭を撫でながら、わかった、何度でも。と答えてくれた。

我ながら色々めんどくさい女だ。

ざっと今読み返してみて、この1か月はめんどくさい月間ではないか。


よく付き合ってくれる。こんなはずじゃなかったと思ってるに違いない。

また出た。決めつけ。
妄想。


こんなはずじゃなかったと思っているなら今までのいくつかのやめるポイントでやめてきたはず。

大好きになってくれてるから続いている。


今日は土曜日。彼は夜飲み会だと言っていた。

昨日は逢えて抱いてもらい、来週もなんとか時間をとると言っていた。

彼が忙しい中、私に時間をつくり、愛でてくれる。

充分。昨日の彼は私の前だけの彼。
そう思えばこの土日はへっちゃらだ。

さてジムに行こう。彼が褒めてくれるから今日もお尻を鍛えよう。


今この瞬間、彼が奥さんと一緒じゃないと思うととても気が楽だ。


婚外恋愛で不安になっている人たちみんなに言いたい。あなたの前にいるお相手は、あなたの前だけのお相手だよ。パートナーの前では全然違う人だよ。






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