フィンランド滞在記㉗
㉗イナリの古民家(2日目)
古民家での初めての朝。
不思議とぐっすり眠れました。
朝起きてはじめにすること。薪ストーブの火を起こします。
道具は揃っていました。
ナイフ、薪、マッチ、そして卵の紙容器に燃料を染み込ませた着火剤。
昨夜のストーブはおじいさんがすでに火を入れていて、時々太い薪を焚べる程度で充分燃えていました。簡単に見えたのです。
前日のイメージで太い薪をそのままストーブに折り重ね、最下部に着火剤を置いて着火。最初は着火剤が勢いよく燃え上がり薪に大きな炎が当たります。よし、大丈夫、と思って扉を閉めるとあっという間に火が消えました。
なんど着火剤を燃やしても同じ。
考えます。どうやったらいいのか…。過去に見たことのある記憶をたぐります。浮かんできたのは「6月の夏至祭イベント」「7月のスモークサウナ作り」「8月のLAMP野尻湖(The Sauna)での居候体験」での記憶。
「そういえば…最初は小さい木切れ(焚き付け)から起こしていたな…」
ナイフを取り出し、薪を削ります。木の皮も細かく割きます。
充分な時間燃えるように、たくさん、たくさん。
薪、焚き付け、着火剤を組んで再び着火。
さっきよりは長く燃えたのですが、またしても扉を閉じて程なく消えてしまいます。
「何かが足りない…」
タブレットで薪ストーブの火の付け方を検索。
図解もありました。基本構造は目の前のストーブと同じ。
ストーブ本体、上部に煙突、そして中央やや下に薪を焚べる扉付きの燃焼室、そしてその下に灰を取り出す引き出し。
…と思っていたら、その引き出しがカギでした。
単なる灰取り口ではなく、給気口の役割もあったのです。
灰がこぼれない程度に半分だけ引き出しを開け、薪の下から新鮮が空気が入るようにしました。これが成功。扉を締めても空気の流れは維持されるので一気に火力が増し、太い薪に安定した炎が移り始めました。
よ…良かった。あやうくマッチと着火剤使い果たすところだった…。
部屋が温まり始めたので朝食の準備開始。
その時、階段を上がる音がしておじいさんのノック。
水の入ったタンクを持って来てくれました。
この離れは電気はありますが、排水設備がありません。
外から新しい水を汲んできて、使った水は桶に貯め外に捨てる必要がありました。
タンクのおかげで給水はバッチリです。
お礼を伝えるとおじいさんは母屋へ帰っていきました。
ポットでお湯を沸かし、ティーバッグで紅茶を入れます。
油を買っていなかったのでバターで代用し、コンロでハンバーグを焼きました。
静かです。鳥のさえずり、風の音しか聞こえません。
五感がすべて朝食に向かいます。
人間としての何かが回復するような感じがします。
朝食後、着替えを持って母屋へ。
シャワーを浴びてハイキングの格好に着替えます。
昨夜は気づかなかった周囲を探検しようと思いました。
水とパン、カメラ代わりのスマホ、そして防寒のための着替えを少し、リュックに詰めます。
母屋の裏手は大きな湖。
桟橋にボートが繋がれていました。
視界が開けていて北側180度近く見渡せそうな景色。
夜、オーロラが見れるといいな。。
家の入り口、柵のとびらを開けてハイキング出発。
時間を計りながらメイン道路まで歩くことにしました。
ここには森しかありません。それ以外の音は一切なし。
昨夜のトナカイ牧場まで着き、柵のギリギリまで近づきます。
今日もトナカイたちは居たのですが、昨日とは違う反応。
逃げていきます。自分から一番遠いところへ。
(あれ…?昨日は寄ってきたのに…)
その理由が分かるのは後日のこと。。
トナカイ牧場を後にしてメイン道路を目指します。
右手に柵で仕切られた広大な土地がありました。
よく見るとトナカイたちがたくさん。放牧エリアのようです。
ここでも近づくと、トナカイ全員、離れて見えなくなりました。
先へ進みます。
後ろから車がやって来ました。
乗っていたのはホストのおじいさん。
「やあ、ハイキングかい?」
「はい、楽しんでます」
「それは良かった。私はこれから近くの森へベリーを摘みに行ってくるよ」
「分かりました。いってらっしゃい」
幾つかの脇道もありました。それぞれが各家に繋がっているようです。
黄金色の草木も少しありました。
こんな風に一面黄金色のところも…。ですが、注意。
この一面、沼です。
下手に近づくと沈みます。
今までフィンランドに来てて、沈みかけたことが何度かありました。
一見草地に見える沼や、凍った湖で薄い氷が割れたりして…。
経験者は語る…です。
※湖の氷は薄いところもあるので危険です。
亡くなった方もいますので、ガイドさんや仲間から離れないで。
1時間ほど歩いてメイン道路に到着。結構な距離でした。
時々車が走っています。電線が延びています。
道路の向こう側に大きな湖を発見。ほとりに座って休憩。
水を飲み、パンを食べ、ひんやりした風を受けながらただただ、湖を眺めていました。気がつくと20分ほど経過。全然飽きが来なくって不思議。
結構な時間が経ったので、家へ戻ります。
帰り道では一切トナカイを見かけませんでした。
もともと鼻がいいので先に気づかれています。
フィンランドの人だと大丈夫なのかな…。
家に戻ったのが午後1時ごろ。お腹が空いてきました。
部屋から食材とマッチを持ってきて、裏手にあるグリルコタへ。
この中でバーベキューすべく、火を起こします。
こちらはストーブではないので、普通の焚き火の起こし方でOKでした。
もちろん焚き付けは充分用意しました。
最初はマッカラ(ソーセージ)。
勢い余って思いっきり直火で焼いてしまい真っ黒。
キッチンペーパーで炭を拭き取って食べました。
次は野菜スープの鍋に挑戦。
火加減が難しいですが、しっかり煮えました。
体が温まります。。
午後、小屋のベッドに座ってゆっくり休憩。
夕食前に母屋へ移動。
さあ、薪ストーブサウナにチャレンジです。
仕組みは離れのストーブとほぼ同じ。
しっかり焚き付けを用意して組み上げて、着火。
2回目でしっかり火が付きました。よし。
あとはガンガン薪をくべて火力を上げます。
サウナストーンが温まり、サウナ室全体が温まるまで。
薄暗いサウナ室で無心で薪をくべている時。
不思議な感覚がありました。今でも覚えています。
視界にあるのは真っ赤な燃え盛るストーブ。
轟々と勢いよく燃える炎。
その音が音楽に聴こえました。
和太鼓のような重厚なドラムを鳴らしているような。
自然から聞こえる音を僕の脳がそう解釈したのでしょう。
40分くらいで温まり、待望のサウナタイム。
静かで平和な時間。
オウルの時は電気ストーブだったけど、薪ストーブは結構大変。
その分、入った時の充実感は大きいです。
サウナで温まり、シャワー室で外気浴しつつ、火加減も見て薪を追加したり。サウナに入るってこういうことですね。
ヘルシンキのソンパサウナ、オウルの家庭のサウナもそうですが、自分がサウナを温める側であり、入る側でもある。
分断されていない。それは大事なセンスだと思います。
サウナを終え、火の始末をして、シャワーで汗を流して終わり。
裏庭の湖を見て少し涼んでから、離れへ戻って夕食。
(その前にちゃんと部屋の薪ストーブも温めました)
夜はひたすら紅茶を飲みながらSNSを見てました。
この時間がとても不思議で。
この1か月の滞在で一番印象に残っている時間です。
五感が一番透き通った時間でした。
この時はもう、ストーブに薪を足す行為が全く無意識で行えるようになっていて。
紅茶を味わう味覚とSNSを見ている視覚、タブレットを操作する触覚、ストーブの火加減をうかがっている聴覚、そしてフィンランド特有のカントリーサイドの甘くて安心する匂い、嗅覚。
思考はほとんどゼロ。
ただひたすら、感じるだけの時間。
僕にはそれが、人間の本来の姿なのではないか、と思えるのです。
動物としての人間の感覚が透き通って発揮された状態。
夜が深まると自然に眠気がやってきました。
昨晩よりもいっそう深く、安心して眠りにつきました。。。
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