chapter.8
久しぶりに書いてみようって感じでこんにちは。
BTG立ち上げからはや一年が経過したじろうon the trailです。
そういえばちょっと前にメルカリにMOTHが出ていたとか出ていなかったとか聞いてしまったのだ。
どういう現象だこれは…。
とまぁ清水が巌を侵食するようにジワジワお客さんも増えてきているのを実感していたりいなかったり…みたいなシーンの中ではまだまだ吹けば飛ぶような存在感を良いことにあれこれとアイデアを発展させて試作品を作っては散財しています。
すなわち未だに貧乏です。
構造即意匠也
自作即散財也
ボクのバカ!
MOTH/HBとか
今までけっこうな時間を割いてこのモデルはブラッシュアップしてきたのだけれども、モデル単体についてまとめて解説したものがなかったのであれこれ書いてみようかな!
みたいな!
まずはこれを作るいきさつなどを書いてみちゃおうかな!
みたいな!
なんかちがう
そうそう、確かにこんなことを思いながら自作ミッドシェルターの設計で悩んでいたのだ。
いやまぁ、楽しいんだけど。
なんせミッドシェルターといえばULハイカーのアイコンではありませんか。
違いますでしょうかそうでしょう。
いやしかしですね。
これが、自腹で作り続けるのも大変だしちょっと売りに出そうかなと完全にナメた感じで考え始めた時期の悩みである。
ミッド…うぅ…ミッド…。
動機が不純だから閃きの神様が微笑んでくれないのか…。
神様、そんなにボクがお嫌いですか…。
あっちをひねりこっちをねじってもミッドはミッドにしかならず、そんなんならボクが作る意味ねぇわって感じだし、うっかり似た形やシステムにして訴えられてもアレだし。
こういう時は"あの人"に相談だ!
ちょっと相談したいことが…って感じでハイキングの帰りに会いに行ったんだけど、自作のシェルター…というよりは正直にメーカー化しようと思ってます!と言っちゃおう。
「イイネ!やっちゃいなYO!」
ふんふんと聞いてくれた後の第一声がこれである。
少し興奮した感じで話を聞いてくれたのをよく覚えています。
「東海自然歩道は日本のATみたいなモンだからサ!じろちゃんは日本のZpacks目指しちゃいなヨ!」
いや、さすがにそれは荷が重いっす…。
この一見して軽い感じにいつも背中押してもらってますありがとうございます。
ホッとしつつ胸中で手を合わせながら、ミッドだとなんか違うんすよね〜と打ち明ける。
かと言ってミッド症候群のボクは、でもなぁ、やっぱりなぁ、と悩んでいることも話しちゃおう。
ただ、この頃にはすでに小さいフットプリントのものを志向していて、これは東海自然歩道とか日本のトレイルに最適化されたシェルターをどうにか作れないかみたいなことを考えながら歩いていたからであろう。
密な樹林帯と平らな場所の少なさ。
日本のトレイルを歩くには最小限の設営範囲のものが必要だ!
日本人が好きそうな多機能性にはあまり興味がなくてごくシンプルなもので良いんだけど、フルカバーのものが良いな…とか、日本ではハイブリッド型(バグネットとフロアが一体になったやつ)は何日か使い続けると中に結露が溜まるんすよね手間もかかるし…とか話しながら何かヒントを頂ければ…みたいな。
揉み手まではしなかったけど、まぁそんな風情である笑
お恵みをぉ〜。
みたいな。
あー、恥ずかしい。
コアなハイカーの要望を日々聞いているであろう人なので何かその辺の需要を聞ければ…という下心満載である。
道があったら歩きたい。
もとい。
穴があったら入りたい。
最終的にはなんのヒントも答えも無し。
当たり前でございますですね。
作るのはボクですからね。
結局、作りたいものや理想というのは自分の中にしかないのである。
甘ったれるなということであろう。
それでも、「最終的にはじろちゃんの作りたいものを作れば良いんだけど」との前置きの後にいくつか個人的な要望を教えてくれました。
要は"こんなんあったら良いな"的なものですね。
①設営簡単
②ツェルトのようなAフレーム
③強い耐候性
④ツェルトの2/3以下の重量
⑤小さい設営範囲
お、おぉ…笑
けっこうな難題きました笑
個人的にはYAMAみたいなAフレームは好きでいくつか作ってはいたのでそこは良いとして、耐候性が問題だなぁ。
地味に重量もシビアな線である。
Aフレームはパネルが大きいので好き勝手に作っているとけっこう重くなってしまうのです。
まぁ、ミッドの圧迫感も気に入らないところであったし、頭から足まで上部空間が確保されるAフレームに魅力と可能性を感じてもいて、ツェルトのシンプルさも好きだったので、この線で行ってみようと頭が切り替わったのであった。
何より新しいものが作れるかも知れないと思うとワクワクしちゃったんですよ。
ツインピークとのハイブリッド
さて帰宅して早速情報を漁る。
ミッドの話のくだりでBlack diamondのMEGA lightの話が出たのもあって、そういやBETA lightがあったぞと検索をかけて参考までに改めて各寸法など調べましたとも。
出た!ツインピーク!これだ!でもデカい!これ小さくしちゃおう!でもデカい!なんだこれ!デカい!こんなデカかったっけ!よし小さくしちゃおう!
とにかく脳が活性化しているので、瞳孔が開いた状態でドンギマりである。
ちなみにツインピークの源流はMOSSテントのようです。
chapter.5で読者の方からコメントでご指摘いただきました。
本文修正しなきゃなぁ、と思いつついつも忘れております…。
ドヤ顔でBDが起源とか言ってて恥ずかしい。
道があったら歩きたい。
もとい。
穴があったら入りたい。
ともあれ、ツインピークならボクのミッド症候群も満足させられるし良いじゃん!といったところである。
完全にキマっています。
ここから設計とプロトタイピングの地獄が始まろうとは…。
ま、その辺はchapter.5に書いたので割愛しますが、本当に大変でした。
金銭的にも自転車操業状態で、このあたりから完全に楽しいDIYから踏み外していきます。
ピッチをどうシンプルにするかという問題は本当に頭を悩ませました。
単純にアシンメトリーミッドを繋げるだけでは上手くピッチ出来ず、一度ツェルト型に振ってみることにしました。
失敗からの推論として、サイドパネルのシームにカテナリーを入れると張力バランスが崩れるのではないかと思ったのです。
サイドシームにカテナリーを入れると、サイドパネルのフロント/リア側に張力が集中するために、それまでのプロトタイプはメインのリッジラインに張力がかからず、ピッチするところまでカテナリーを入れると内部空間がめちゃくちゃ圧迫されてしまう。
具体的には天井の真ん中をピークよりも30㎝以上下げないとメインリッジラインがピッチしない。
写真の2号機はそういうことで一度ではピッチ出来ず、リッジラインのカテナリーを作り直しました。
それでも切り取りすぎるのをビビって満足にピッチできるものにはならなかった。
もう使い物にならないシェルターに埋もれてこのまま年老いて死んでいくんじゃないかと思いました笑
とにかく、サイドシームはストレートカットで良いんじゃないかということに気付くのに時間もお金もかかり、もうこれ以上失敗するとヤバいとこまで来ていたのでツェルト型で様子見しようって感じでしたね。
結果は成功でした。
やれやれ。
ピッチした時はかなりテンションが上がりましたねこれは。
サイドパネルの問題は気付いてしまえば単純で、要はリッジラインのカテナリーでサイドパネルの面張力は確保されるので、サイドシームのカテナリーは余分ですよってことなんですが、耐候性を出すためにはピチピチに張り込むことが必要だという脳みそになっていたので盲点になっていました。
まぁ、ダウンサイジングで検討しろよって話なんですけど。
完成したものはBPLにも投稿して、本場のギアマニアに評価してもらっちゃおうかな!
みたいな!
初投稿でドキドキです。
ここでDCFハイバイアスやダンダーストンによるスレッドなどを紹介してもらいました。
1番の収穫は、Brookeというハンドルネームの人によるタイアウトの考え方でした。
この人は上海のギアメーカーのオーナーで、DCFが出始めた初期の頃からこの素材に関わっている人のようです。
Tara PokyとかPretentとも仲が良いようですが、それを自慢したりもしない人です。
この人はダーストンとはまた違う視点でシェルターやタープを作っていて、かなりレベルの高い仕上がりです。
ここまで論理的にタイアウトや素材のことについて考えている人がいるのは衝撃でしたね。
後日、HBバージョンを作ったことも同スレッドで報告しています。
各論いっちゃおうかな!
じゃあ、MOTHの細部いっちゃいますかね。
けっこう構想してから基本的なコンセプトはすぐに決まったんだよな。
焦点が定まって集める情報にも芯が通ったからかなぁ。
よくわからないけど、わりと知りたいことをピンポイントで知れた感じ!
みたいな!
ここで得たものを整理して一連のシステムとして統合したのが以下の部分になりますドーン!
全体設計
ボクがHB理論と勝手に呼んでいる理屈は、DCFのクリープ(伸び)に対してどのようにパネルの配置を行うか、という方法論です。
ここでも触れていますが、DCFは不織布をフィルムでラミネートしている関係でバイアス(斜め)にかかる力に対して変形します。
これは単純にボンディングしたミッドで頻繁に起こります。
具体的には、ミッドの各パネルのリッジラインになる部分ではダイニーマ繊維がバイアスになるのが一般的ですから、タイアウトの強い張力によりリッジラインが経年で伸びていきます。
これはいくら出荷時にソリッドかつ綺麗に作ってあるシェルターでも起こります。
ボンディングの接着強度も関係ありません。
0°と90°のダイニーマ繊維方向に対しては非常に強いDCFですが、例えば5°の角度で引っ張っても伸びます。
つまりタイアウトの角度はダイニーマ繊維と一直線になるようにパネルを配置する必要があります。
ところが実際はさらに複雑で、様々な方向に力がかかります。
こういった主要張力線上に伸びを規制する補強や工夫が必要ですが、MOTH初期型では①と④には補強がありません。
特に④は繊維が斜めのまま裾となっているために、経年でのクリープが発生する可能性が高いんですねこれが。
とはいえ、強く張力がかかる③は伸びが規制され、②に関してはテープでの補強が入っていて非常に強いシームとなっていますので幕体の形態安定性はそれでも高いと考えられますが、現行モデルでは①と④の裾にもCFテープを縫い込んで補強してありますので、ほぼ全方向に対してクリープの発生を抑えています。
具体的には画像のように2㎝幅のCFテープを貼り付けてから裾を三巻にして縫い込みます。
こうすることで裾は骨格としての機能を持つようになります。
つまり、タイアウト付近の変形はほとんどないと推測できます。
木造建築で言うと、パネルは壁(そのままか…)でシームが柱や梁や土台という感じの捉え方を今ではするようになりました。
次にサイドパネルの張力の流れを見てみましょう。
サイドタイアウトからピークまではこのような張力の流れになりますが、これはサイドのフロント側/リア側の三角形を回転させて配置して繊維方向を整えているため、サイドシームにあたる真ん中の逆三角形辺縁のクリープが規制されています。
加えて、ここにも補強テープを貼りますから、この部分の変形もごく僅かになります。
また、応力は中間から分かれますからその部分にプルアウトを配置することでサイドパネルを効果的に強化することが可能です。
次にリッジラインです。
張力は画像のように流れます。
ここでもリッジライン全体にテープでの補強が必要になります。
しかしこの部分は特に強い張力がかかりますから、画像の丸で囲んだ部分の劣化が早まるのではと考えています。
ここはかなり鋭角になる部分ですし、今後何かスマートな形で補強を追加、もしくは補強パターンを変更するかも知れません。
ところで、現行型に採用しているボンディング手法ですが、画像のように二重にボンディングを施してあります。
これは一度1㎝幅で接着後、さらに2.5㎝幅のテープで補強してあります。
シームでのクリープと層間剥離を防ぐ役目を果たします。
これもchapter.6に書いてありますが、シームにかかる張力と、そこから発生する面張力にたいして非常に強力です。
この方法はYAMAやMLDで製品の一部に一時期使われていたようですが、現在は不明です。
縫製ほどではありませんが、けっこう手間がかかります。
ここまでで、DCFの敵はクリープであることがわかると思います。
縮み(シュリンク)について語るメーカーは多いし、その縮みを計算して作っているようなことをウリにしているメーカーもありますが、個人的にはその認識だけでは不十分であると思います。
特にバイアス方向に常に力がかかる部分は、素材寿命がくるまでの長期に亘って伸び続けます。
タイアウト
タイアウトに関してもchapter.6で解説していますが、その時点から全ての現行型でボンディングによるタイアウトにアップデートされています。
このタイアウトは縫い目を減らすことが1番のメリットです。
ボクの使う接着剤のデータシートから計算すると、1箇所のタイアウトで約40㎏ほどの剪断荷重に耐えられる接着強度があります。
2列だけ追加される縫い目は剥がれ止めで、無関係ではありませんが、原理的には接着面全体で張力を受けるようになっています。
タイアウト付近のシワがタイアウト起点から綺麗な放射状に出ているのは、縫い目の少なさに由来します。
以前にも触れたように、縫い付けのタイアウトの場合はラインの張力はループへ、そしてそこからさらに縫い目を通じてパネルへと伝わります。
ですので、そこで縫い目周辺にシワが発生します。
現行のタイアウト形式の場合は、ラインからの張力は貼り付けられた補強パッチに伝わると即座に面張力へと変換されます。
まぁ実際には縫い目が少ないながらあることと、内側にミルスペックのグログランがあるので全ての張力がすぐに面に広がるわけではありませんが。
加えて引っ張りに対する力はデータ上は縫い付けよりも強くなりますから、タイアウト自体の強度は上がっているはずです。
またこのタイアウトパッチは構造上の理由から2.92DCHを使用していますから、素材の厚みや硬さから来る張力の不均衡を防ぐために二重サークルデザインがより重要になります。
実際かなり強い張力をパネルに向かって分散するために、以前よりも一重目のサークルパッチとの差を大きくしていて、2.92パッチの3.1倍ほどの半径としています。
それでも二重目の外側では張力が分散しきれていないかも知れないということに最近気が付いたので、将来的にはもう少し補強サイズに検討を加えるかも知れません。
こういったボンディングによるタイアウト形式はhigh tail designがタープに使用したのが初めてだったと思いますが、今では香港のounce designも似たものを作っています。
high tailは裏表一体成型で、それ自体が二重サークルデザインのようになっていますし、ounceは1.43DCFと組み合わせて三重ほどにして段階的に厚みを減じています。
ボクはピークにもこれを応用しています。
ピークでは強い張力をパネル表面に伝えるために少し大きめのパッチを貼っています。
この部分は一体成形した補強パッチにグログランを仕込んでリッジラインに縫い付け、折り返してキャノピー表面にパッチ部分を貼り付けているのでかなり強いガイポイントになっています。
また縫い目を隠すように施工するので、追加の防水処理が必要ありません。
このタイアウト形式とHB理論を組み合わせることで、DCFのメリットを活かしつつデメリットを極力抑えることができると考えられますので、総合的な幕体の寿命は伸びると思われます。
0.51DCFを使ったシェルターの寿命は100〜150泊程度と言われていますので今後MOTHがどれくらい保つのか楽しみなところですが、接着剤の寿命などもあるので必要があればアップデートしていきたいと思っています。
こんなんでどうでしょう
まぁ普段何気なく作ってはいますが書き出すとけっこう情報多いですねー。
まだ細かい部分でいろいろありますが、主要なアピールポイントはこんなところですね。
ラインシステムもけっこう悩んだ末に今の構成に落ち着いたんですけど、それは後日追記するかも知れません。
フロアレスってシンプルに見えるんですけど、けっこうどこのメーカーも設計は緻密にやってると思います。
まぁでも細部まで隙なくデザインしてるのは個人的にはtarptentとDurstonかなって感じです。
フロアレスじゃないけど。
確かにシームを減らすと軽くなるんですが、その分素材に無理がいくようになるのであまり強くピッチできなかったり、寿命が短くなったりします。
逆に意味のないところにシームがあってもダメなんで、その辺のバランスが難しいところです。
造形的な美しさとか面白さやデザイン性を求める前に、まずその構造体が工作理論上の理屈にあったものかどうかという部分が基本です。
素材を活かしきってこそのデザイン性やカッコ良さであると思いますし、素材特性を無視したような道具はシェルターに限らずいくらデザイン性が高くても手を出さない方が無難でしょう。
自分の身体と道具を上手く機能させるのが個人的には楽しいですかね。
まぁ道具関係なくパワープレイで乗り切っちゃう人もいれば道具に使われているような人もいるので、この話も数ある戯言のひとつとして聞いてもらえたら良いですかね笑
みたいな!
Make your own gear!
Hike your own hike!
…and
Happy trail!
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