上書き

好きだった人と少し前まで一緒に取り組む事の多かった仕事の場所に久しぶりに行った。

あの人が去ってすぐに行った頃よりは辛くない。

もう 誰かが階段を上がって来る足音を聞いてもあの人のはずが無いって事を 私もアップデートした。

駅の近くの仕事場で 電車や踏切の音がしても あの人が乗って来るわけも無い事も理解したから 少し前の様に来ないとわかっている事をわざわざ嘆いたり 鼻の奥をツンツンさせることも無いわけだ。

仕事が忙しいのは 良いこと ありがたい事だ。

変化があの人と一緒だった記憶を上書きして  元の記憶を辿る道も少しずつ消して行ってる。

と言ってもあの人はもう 上書き どころか もうOSが違ってしまっているので もはや古い記憶の仕事等 毛頭頭から消え去って 無くなっているだろう。


私も もうすっかり 同じく古い記憶が消え去っているならば  アップデートでもバージョンアップでもどーんと来いと平気なはずが 未だ DELETEをちょっと拒む自分がいる。

上書き保存する前に 「ちょ ちょっと待って!」と楽しかった記憶がちょっと躊躇する。

忘れる事で悲しい記憶を消して行けば荷物は軽減し 前に進みやすくなるだろう。


だが まだ私は良い歳した大人なんだが 「やだやだ」と地団駄を踏み 駄々をこねて 床上で大の字になって泣いて暴れたろかと一瞬椅子からお尻が浮きかける。

本当にやったら誰か止めて。





何度も言うが 忙しいのは良い事で


余分な事が頭に浮かばず 良い事のはず。


だが こんなにあの人の事が浮かぶのは 自分にとって余分な事 余分な人にまだまだなっておらず 忙しさで蓋をして心の底に押し込めたこの悲しさ 切なさは 少しは小さくなったものの まだ 切り離せずにいる臍の緒の様なもので繋がっているのだろう。



誰にでもあると思う。


周りからは もうそんなに古いもの 壊れたもの いらないもの 捨てれば?!

と言われても 愛着があったり 心に落ち着きをもたらせ 手放せないものが...。

悲しいかな 好きな人を忘れたくない為 私は 自身の悲しみを抱え続ける事によって あの人を心や頭の中の記憶にとどめようとしているのかもしれない。 良い思い出にして 早く辛さから抜けたいと思う真逆で 少しでも あの人を思う執着を持つ事で 何も感じなくなって 普通になってしまう自分になる事を拒む盾にしているのかもしれない。



ならば 神様。

あの人の記憶から もう一つも去年までの思い出が毛頭無いなら いっそ 毛根から抜いちゃって 見た目でもわかる様にしてください。

「〇〇さん 禿げちゃったらしいよ」

そんな噂が耳に入って来たら やっぱ無いんだーって諦めて

私も全部手放せる気がする。


髪様。


そんなのダメ?