マガジンのカバー画像

小説『ウミスズメ』【全17話+あとがき】

18
それは、名前の無い青年と少女の出会いから始まった。 存在と不在、日常と違和感の狭間で それぞれ行き場を見失った二人の 奇妙な四日間の物語。 「自分は何者なのか」「存在していると…
運営しているクリエイター

#マタイの召命

小説『ウミスズメ』第四話:少女・深海魚・スニーカー

【前話までのおはなし】 取材先のカフェは青くて魚だらけだった。 そこで僕は髭のオーナーと「ユト」という名の少女に出会う。 僕はふと、いつか見たカラバッジョの絵と、母の言葉を思い出した。 〈この絵はね、マタイがイエスについて行くために椅子から立ち上がる、その直前の情景を描いたって言われてるのよ〉  それはカラバッジョの『マタイの召命』という絵について、母が僕に語った言葉だった。何故、急にそんな事を思い出したのか自分でもよく分からなかった。もしかしたら光の加減があの絵に似てい

小説『ウミスズメ』第七話:イカ釣り漁船・牛丼・先入れ先出し

【前話までのおはなし】 なんとか魚カフェを出て、僕は家へ戻ることができた。 そして眠気の中をフワフワと漂いながら、魚カフェで去り際に見た絵のことを思い出した。 僕はあの絵が妙に気になっていた。 〈なんだかおかしな絵だったな〉  そういえば、母は絵が好きだったのかも知れない。僕がまだ小さい子供だったある日の午後のことを、ふと、思い出した。    * * * * *  その時、僕と母は十二枚の絵を縁側に並べて眺めていた。  絵とはいっても本物ではなく、新聞屋が宣伝用にく