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月影【2021/09/23】

映画「ムーンライト・シャドウ」を観てきた。
吉本ばなな原作の小説をマレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督が製作したというところが売りであったが、きちんとこの作品の長所足り得ていた。

内容には触れないけれども、そもそもこの作品の良いところは表現や雰囲気の部分だった。原作ありきなので、やはり映画としてはどう表現するかが上手にできているというのは魅力的。

昨今の日本映画となにが違うと感じたかといえば、(物理的な)奥行きのある構図を多用していることかなと思った。なんとなく偏見だけれど、最近の日本の日常ものの映画は画角全体を舞台装置としたような、のっぺりとした空間を登場人物たちが動いているものが多い気がする。
今回の映画ではどのシーンでも人に焦点をあて、背景は必要に応じてぼかしたりはずしたりして、観るべきものが明確である。
最近の日本映画がすべてを均一に見える構造としている舞台的な映像なのに対して、本来の映画的な見せ方な映画だと思った。

また、元が長くない小説で、ややファンタジックな側面のある物語であるからか、場面設定をあまり限定しない表現であるところも「短編小説的」でよかった。どこの街なのか、どういう環境で暮らしていて、どんな家族構成なのか、何をしている時なのか、みたいなことは特に重要ではなく、登場人物たちの言動のエッセンスだけを抽出しており、世界観に深入りしすぎない、上品な作品に仕上がっている。

ちなみに、タイトルは物語で重要となる「月影現象」からきているが、日本語の意味としては影というのは"shadow"ではなく"silhouette"のことである。なので、月影は直訳すれば「月明かり」ないしは「月そのもの」のことになるはず。そこを敢えてタイトルに「シャドウ」と入れていることは、人が形ある"silhouette"だと思って見ているものは陰でしかない"shadow"という虚構なのかもしれないという示唆的な意味合いがあるようにも感じた。

そう思ってみると、物語をもう一度考えてみたくなってくる。

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