滞留

好きな人と食事に行った。
それを果たして「デート」などと呼んでいいのかは分からない。

食事に誘ったのはこちらだったが、店を決めて予約までしてくれたのは向こうだった。駅から店までの道のりを調べて連れて行ってくれたことにも礼を言っていたら「こういうのは男がやるのが当たり前でしょ」なんて返ってきて、形容し難い喜びにマスクの下で変にニヤけた。

さぁいざ食事だと思ったが、夕方とはいえまだ暑い中暫く歩き回っていたせいか体調が悪くなっていた。情けなくなりながらも相手に体調不良の旨を伝えて薬を飲んだ。そのおかげで徐々に元気になって無事に完食できたものの、あんなに肝を冷やすことになるとは思わなかった。

食事代まで奢ってもらって、感謝でひたすら頭を下げていたら「この後のカフェ代出してくれたらいいよ」なんて、どこまで出来た人間なのだろうか。到底同じ歳だとは思えなかった。

夜景が綺麗な道を歩きながら、手を繋げる距離にいるのにそれが出来ないのが少し寂しくなっていた。恋人ではないし、友達と言っていいのかも分からない。ただ、同じ職場の人止まりかもしれない。

話題は尽きないけれど、肝心のことは何ひとつとして聞けずじまいだった。
それでも、楽しかった思い出と優しくしてもらえた記憶だけで生き永らえることが出来そうな気がした。

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