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「世界法の理念」

「世界法の理念」

世界社会は、地球上の人間の理念における連帯を基礎とする。この理念は、各人を目的追求主体として承認すると同時に、人間を目的自体としても承認する。それゆえ、各人は、人間を目的自体として承認して行動し、人間を単なる手段としてのみ扱うことを禁止する。

立法者は、あらゆる人間を目的自体として尊重することを原則とし、法定立の基本にこの原則をすえ、さらに公益的な観点から、政策的な配慮を組み入れ、基本原則に則ると同時に、最善の効果が期待できる法律の公布を目指すべきと考える。

あらゆる人間の尊厳を尊重することの要請は、道徳規範と法規範に共通である。道徳律は、行為者の内面に、人間の理念に対する尊敬の念を求める。すなわち、行動の動機に関心があり、性格まで高まることを目指している。これに対し、法規範は人間の尊厳における平等という普遍的法則と両立する各人の外的自由の確立を目指している。

この人間の尊厳における平等と両立する各人の外的自由の保障という理念は、「世界法」のいしずえである。世界法の法主体は、「世界市民」と呼ばれる。人間の「生まれながらの権利」であり、「生来性」という性質を共有する「自然権」としての「基本的人権」は、日本国憲法前文にある「平和的生存権」も含め、世界法の主な内容である。

「自然権」としての基本的人権は、実定法を超える、そして実定法化を求める、理念と合致した規範である。世界法は、国家に対して、「責任ある主権」を求め、国内的には、管轄権内のあらゆる人間の基本的人権の尊重と、それを保障するための統治機構の確立を要請する。対外的には、他国の主権の尊重、ならびに、世界法の理念に基づき、国際協調主義を求める。

「責任ある主権」の第一次的な責任を果たすのは国家である。しかし、国家にその能力・意志がない場合、または国家自身が基本的な人権の重大な侵犯者となる場合、国際社会が第二次的な責任を果たすことになる。これは、国際社会の「保護する責任」である。世界法は、特に基本的人権の尊重は、世界市民と諸国からなる世界社会によって、促進され、保護され、保障される。

国際人道法は、基本的人権と同じ世界法の理念に基づき、特に、武力紛争における圧倒的な人道的必要から要請されるものである。国際人道法の履行確保は、重大な国際関心事項であり、世界社会は、さまざまなアクターによる、相対的・重層的な対応が求められている。国際社会の「保護する責任」の中核を担うのは、相互に自由を保障し合う「自由な国家連合」としての国際連合とその諸機関およびそのパートナー団体である。

*「世界法の理念」への注記

国際法の第一の目的は、国連憲章の第一義的な目的と同じであり、すなわち、国際の平和と安全を維持することにある。国際人権法は、国際法において実定法化された基本的人権であり、国際法の一部であると同時に、その法規に則り、多くの場合は、国内法においても実定法化される。実定法化される以前の「自然法」としての基本的人権は、実定法化されることによって、履行確保システムを獲得し、制度的に実施されることになる。さらに、実定法には、社会の平和と安全の維持という第一義的な目的を有しており、基本的人権と同様に、それ自体で尊重されなければならない。「基本的人権は、実定法化されることを求めるものだが、実定法を破壊する火薬庫となってはならない。」基本的人権における「至上の権利」は、それを失えば全ての人権を失う生命権であり、「実定法による社会の秩序は、各人の生命権を確保する法的安定性を与える。」基本的人権は、実定法において保障されるべきであって、実定法にとってかわるものではない。

国際人権法は、国際法の基礎ではなく、国際法の一部である。

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